宗教史に学ぶ｢競合分析｣と｢市場戦略｣ 宗教市場という｢レッドオーシャン｣をルターとマーニーはどう戦ったか

1. クライアント言語の習得： 皇帝に謁見するため、相手の公用語である「中世ペルシア語」をマスターします。

2. 専用ツールの開発： 布教に最適化するため、アラム文字を改良した独自の「マーニー文字」を考案します。

3. 専用の「提案書」作成： そして、皇帝のためだけに『シャープフル皇帝に捧げる二元論』という書物（聖典）を、その新開発の文字と皇帝の言語で書き下ろし、献上したのです。

このプレゼンは見事成功。皇帝の随員となったマーニーは、帝国全土での布教許可という、何物にも代えがたい事業ライセンスを獲得しました。

最強の後ろ盾を得たマーニーは、次にフランチャイズ展開を開始します。自ら作成した完璧な「事業マニュアル（聖典）」と「マーケティングツール（自ら描いた細密画や詩）」を弟子たちに持たせ、彼らを営業担当として東西に派遣。組織は短期間で世界的な拡大を遂げたのです。

しかし、このマーニーの戦略は光ばかりではありませんでした。競合の模倣に依存した戦略は、最後まで「本家」のブランド価値を超えることを困難にしました。

そして何より、天才創業者マーニーが一人で作り上げた完璧すぎるマニュアルは、彼の死後、組織が時代の変化に対応するためのモデルチェンジを許さず、柔軟性を奪う足かせとなったのです。

結果として、強力な庇護者・シャープフル1世を失うと、競合であるゾロアスター教神官によって政商として潰されてしまいました。イラン高原から追放された後も、マーニー教は中国や中央アジアで細々と信仰されますが、14世紀ごろに滅んだと考えられています。一時は隆盛を極め成功したビジネスモデルが、やがて自らを滅ぼす要因となる。実に学びの多い事例です。

ケース2：プロテスタント―― 巨大独占企業の「弱点」を突いた破壊的イノベーション

マーニー教が競合の良いとこ取りをするハイブリッド戦略ならば、マルティン・ルターが引き起こした宗教改革は、巨大独占企業の弱点を突いた「破壊的イノベーション」でした。

ルターが対峙したカトリックは、当時の欧州の宗教市場を独占するいわば「国際的巨大財閥」でした。