宗教史に学ぶ「競合分析」と「市場戦略」 宗教市場という「レッドオーシャン」をルターとマーニーはどう戦ったか

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マーニーは、先行する人気宗教を徹底的に分析し、それらをパーツに分解しました。そして、それぞれの「最もウケている機能(教義)」だけを巧みに抽出し、ある意味一つの「全部入り決定版プロダクト」として再構築したのです。

マーニー教の壮大な神話世界を見てみると、その戦略は明らかです。

• ゾロアスター教から: 物語の基本設計には、「善と悪の二元論的世界観」を採用しました。

• ユダヤ教・キリスト教から: ストーリーの登場人物には、「アダムとイブ」や「イエス・キリスト」といった、圧倒的な知名度を持つキャラクターを、自社の文脈で再定義して組み込みました。

• 仏教から: 課題設定には、「厭世観(えんせいかん)」、すなわち「この世は苦しみである」という、多くの人が共感しやすい認識を取り入れています。

既存宗教の信者からすれば、自らが信じる神様や馴染みのある物語が登場するため、非常に聞き入れやすい。しかし、それらの要素は巧みにマーニー独自のオリジナルストーリーの中に誘い込まれ、最終的には「あなたの知っている教えは不完全であり、こちらが完全版ですよ」という結論に着地するのです。

ただのパクリではなく、各競合の長所を深く理解し、信者という名の消費者のニーズに応える、高い品質の新製品として仕上げていたからこそ、多くの支持を集めたのです。

完璧なBtoBトップ営業とフランチャイズ展開

さらにマーニーの凄みは、事業展開戦略にもあります。彼は、「全部入りプロダクト」を世界に広めるため、国家権力という最強のスポンサーを獲得するトップ営業を仕掛けます。

242年、サーサーン朝の新皇帝シャープフル1世が即位した情報を掴むと、マーニーは周到な準備のうえ、一世一代の政府向けトップ営業に打って出ます。

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