探求〈上・下〉 エネルギーの世紀 ダニエル・ヤーギン著/伏見威蕃訳 ~キーパーソンの活躍ぶりを赤裸々に描き出す
本書は、世界的ベストセラーとなった『石油の世紀』でピュリツァー賞を受けたダニエル・ヤーギン氏が昨年9月に発表した新刊の邦訳書である。
時空を超えてキーパーソンたちの活躍を赤裸々に描き出すダイナミックな筆致は『石油の世紀』と変わらないが、今回は取り上げるテーマが石油にとどまらず、天然ガス、電力、再生可能エネルギー、地球温暖化対策、省エネルギー、電気自動車など、エネルギー・環境問題の全般に及ぶ。これだけ広範な内容を、入念な現地調査、聞き取り、文献検証によって高い信頼性を保ちつつ叙述しているのであるから、上下2巻とも500ページを超える本の厚さも気にならない。
エネルギー・環境問題には多様な要因がからみ合っており、それに対する的確な答えを得ることは、複雑な連立方程式を解くのに似ている。東京電力福島第一原子力発電所事故後の日本ではエネルギー政策の全面的な見直しが進められているが、その作業がなかなか進展しないのは、原子力や再生可能エネルギーなど個々のテーマに目を奪われて、エネルギー・環境問題全体を見渡す総合的な視点が欠けているからである。
その総合的な視点を導入するうえで、本書は大いに役立つ。石炭に関する言及が弱い点を除けば、本書は、エネルギー・環境問題にかかわる主要な論点をすべて、歴史的かつ国際的に掘り下げているからである。