僧侶と名乗るには、宗派から与えられる資格が必要だ。友光氏は大正大学に編入し、仏教と天台学を学び、天台宗の総本山である比叡山延暦寺で2カ月間の修行を行った。
お坊さんとしての常識や約束事を学び、無事に資格を得て結婚、つまりお寺に入ることになった。ちなみに、婿養子にはならず、常行寺の住職(義理の父)に弟子入りをする形で仏門に入った。
知らなかった仏教の世界とお寺の存亡
「仏教を勉強するまでは、宗教者とは教えをすべて信じ、それをそのままに伝えるものだと思っていました。聖書はこう言っています、お釈迦さまはこう言っています、と絶対神や唯一神を信じ、崇め奉るものだと思っていましたが、違いました。主体は受け取る側にある。その人の苦しみや悲しみを解決するため、お坊さんが自分のフィルターを通して、仏教の教えをどう伝えるかは自由です。仏教徒がキリスト教の教えで救ったとしても構わない。結果的にその人が、前向きに生きていけるようになればそれでいい。そういう部分が、とても面白いと思った」
お坊さんは、通夜葬式法要のためだけにいるのではないことはわかった。でも、実際にお坊さんに悩みを相談する機会があるかというと、特に若い世代はまったくといっていいほどない。寺が何をする場所かすら知らない人がほとんどではないだろうか。
「『未来の住職塾』という、お寺の今後のあり方などを学ぶ場があり、僕はその一期生なのですが、過疎地や離島のお寺の状況を聞くと想像を超えるものでした。檀家さんがゼロ、20年後には人がいなくなる、自分の代でお寺は終わる、すでに廃墟になっているところもある、など。ある程度余裕があり、恵まれた環境にいる僕がお寺の未来について行動を起こし、発信し、その波を地方まで波及させたいと切実に思いました」
向源がスタートしたのは、東日本大震災後があった2011年の9月。
DJをしていた頃の仲間や友人、芸術家たちに声をかけたら80人ほど集まったという。「庭の見える畳の部屋で、LIVE(ライブ)でいい音を聞いてもらう」趣旨のイベントだったが、友光氏はひとつだけ仏教コンテンツを用意した。それが声明(しょうみょう)だった。
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