メンタルヘルス不調者の私傷病休職に対応できる就業規則について教えて下さい

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メンタルヘルス不調者の私傷病休職に対応できる就業規則について教えて下さい

質問

メンタルヘルス不調などの私傷病で休職する社員の労務管理に対応できる就業規則を作成したいのですが、どのような観点で作成したらよいのでしょうか。(IT関連会社・人事部長)

回答
回答者:半沢社会保険労務士事務所 半沢公一

(1)休職制度の就業規則への記載
「休職」とは、社員が、その身分を保有したまま一定の期間について働くことを免除する制度のことですが、就業規則のうえでは相対的必要記載事項に該当(労働基準法第15条第1項、第89条他)し、社員に休職の規定を適用する場合には、記載しておかなければなりません。

その内容は、休職事由及びその事由ごとの休職期間、休職期間中の労働条件(賃金、賞与等)、休職期間満了時及び復職時の取り扱いなどになります。これらの項目はいずれも使用者の裁量によるものであり、特段、法律上の基準は設けられていませんが、その規定の作成内容に合理性が求められます。

なお、ご質問のメンタルヘルス不調による休職や復職は、とてもデリケートな対応が求められる場合があるため、別規定とすることも考えられます。

(2)休職期間と対象者
私傷病を事由とする休職期間については、過去の勤続年数を会社への貢献と見て、勤続年数の長短に応じて休職期間の長さに差を設けるのが一般的です。

私傷病による休職期間を解雇猶予措置期間として見た場合、正社員であっても、試用期間中の者や入社1年未満の者などは対象外とすることも考えられます。また、いわゆる非正規社員(契約社員、嘱託社員、パート、アルバイトなど)については、一般的に有期労働契約であることが多いことから、休職制度を適用しない例が多いようです。

(3)休職期間の起算日と休職期間の通算
運用上の問題として、休職期間の起算日を「欠勤日から」とするか「欠勤○日を超えた日から」又は「休職開始日から」とするか、規定の記載を検討します。

また、同一傷病・類似傷病の再発により、一定期間内に再び休職することになった場合には、その期間を通算する旨の規定「中断期間が○日以内の場合は前後の欠勤・休職を通算する」を定めておくことも検討します。この場合における一定期間を「1カ月以内」「3カ月以内」又は「6カ月以内」など、どの程度の期間とするかも社会通念上の相当性と照らして検討しなければなりません。

なお、同一傷病か否かの認定をめぐり、当事者間で見解の相違が発生することも考えられますので、同一傷病の判断を、誰が、どのような手続きで行うのかについての記載があるとよいかもしれません。さらに、特別の事情がある場合には、会社の裁量や休職者の申し出により休職期間を延長する旨の規定を設けるかを検討します。

(4)休職期間中の労働条件
休職期間中の労働条件に関して、賃金(月給及び賞与など)について有給とするのか無給とするのか。退職金制度や企業年金制度がある場合に、休職期間を勤続年数に算入するのか、掛け金を拠出するのか等の問題がありますので、規定の記載の検討をします。

また、休職期間中は、療養に専念することや、会社の服務規律を守ること(兼業の禁止や機密情報の持ち出し禁止、守秘義務など)、病状の定期報告などを記載することも考えられます。

(5)復職の判断と手続き
休職期間満了前又は満了時に、休職事由が消滅した場合は復職させることになります。反対に、休職期間満了時においても休職事由が消滅(回復)していない場合には、労務提供不能として労働契約関係を終了することになります。

この場合、退職となるのか、解雇として解雇手続きを要することになるのかは、就業規則の定め方によります。「休職期間の満了をもって退職とする」と定めたときは、当然に退職となりますが、特にその旨の定めがない又は解雇する旨の規定となっていれば、普通解雇の手続き(解雇日の30日以上前の予告又は予告手当の支払い)が必要となります。

また、休職事由が私傷病によるものであるときは、休職事由が消滅したかどうかは、一般的には、傷病が回復(寛解)したかどうか、という会社の判断によります。よって、復職に当たっては、社員の主治医の診断書のみならず、産業医や会社指定医の診断を受けるなどの復職手続きを定めておくことや、会社担当者が主治医と面談することに協力することを社員に求める規定なども必要でしょう。

(6)復職の取り消し
休職期間満了で退職となることを懸念して、いったん復職して、その後短期間で再度休職するというようなことも考えられます。このような休職の繰り返しへの対応は難儀です。復職したものの労務の提供が不完全な状態である場合は復職の取り消しもあることの規定を検討する必要があります。

(7)復職支援
休職者のスムーズな復職を支援するために、試し出勤制度や軽減勤務などの取り扱いに関する規定が考えられます。

(8)配置転換と処遇
復職時の所属及び職務は、原則として、休職前の所属及び従事していた職務になります。しかし、長期休職期間中に他の労働者が休職者の担当していた業務を行っている場合や担当業務の縮小・閉鎖をしてしまった場合、また、復職時点で軽易な業務に就くなど、旧職務を100%遂行できない場合もあります。

このような場合も想定して、他の職務への配置転換もある旨を規定しておくとよいでしょう。重ねて、労働条件の変更に備えて、賃金等の処遇がどのようになるのか、の記載も検討します。


 

半沢公一(はんざわ・こういち)
1980年東洋大学経済学部卒業。IT関連会社で営業、人事労務及び派遣実務に従事した後、91年に独立し半沢社会保険労務士事務所を開設。就業規則をベースとした労務相談を得意とする。企業や団体での講演・講義も多い。現在、東京労働局紛争調整委員会あっせん委員、東京都社会保険労務士会理事等を務めている。著書多数。


(東洋経済HRオンライン編集部)

 

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