渋田さんの「よろず屋 順」は今年に入ってから始めた店だ。
「店を始めたのは最近だけど、40年以上砂町に住んでいるんですよ」
駅から遠いという“弱み”が、人と人を結び直す“強み”に
そう語る渋田さんは、若いころは税務署に勤めていたらしい。その後、芸能マネジメントや運送業などの職を経て、数年前からは訪問介護の仕事を始めた。今は介護の仕事を続けながら、一方でこれまでの経験を生かして「よろず屋 順」をオープンしたのだという。
「とんとんとんからりんととなりぐみ。って歌、知ってる?」(渋田さん)
「隣組(となりぐみ)」は昭和初期の流行歌だ。第2次世界大戦下の日本には「隣組制度」があった。近隣住民で組を作り、隣組は行政の指示にしたがって、配給切符の割当や防空活動、資源回収といった活動を行った。戦後は廃止されたが、隣組的な付き合いは昭和の時代は色濃く残っていた。
渋田さんの口ずさんだ「とんとんとんからりん」は、この隣組制度を浸透させるための軍国歌謡だ。一定の年齢以上の人であれば誰もが歌える。
「隣組、とまでは言わないけど、この街は近所付き合いが厚いんだ。街の姿もそうだけど、人の心も昭和の風情なんだね。濃い人間関係を嫌う人もいるだろうけど、外からくる人を拒むことはないから安心してもらいたいよね。僕の場合は、この地域に40年以上住んでいるから、商店街の人たちのことはよくわかっている。だから商売も始めやすかったけど、そうじゃなくても拒むことはないよ。現にこのSpicafeだって店主が代わって新規オープンしてから1年ほどだけど、すっかり街に溶け込んでるからね」(渋田さん)
大型店に囲まれながらも、砂町銀座が元気なのは、人の顔が見える経済が残っているからだ。駅から遠いという“弱み”が、人と人を結び直す“強み”に変わっているように感じる。砂町界隈はそんな風情を味わうことができる「住むとちょっといい街」なのである。
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