「世界最大級の"超マニアック"博物館」《国立民族学博物館》の"展示されていない33万5000点資料"を狙う者の正体
「一方で国内の資料については二酸化炭素処理を主に用いています」
二酸化炭素処理では炭素濃度を60%から70%まで上げる。低酸素処理では酸素濃度を0.3%以下に保つ。
「虫も低酸素トレーニングやんとか思ってたら、窒息してしまうわけですねえ。なかには二酸化炭素処理や低酸素処理に強い虫もいるんですか?」
樫永先生の質問に末森先生が答える。
「虫の種類というより、ライフステージが影響します。どんな虫でも成虫はわりと簡単に死にます。でも、卵だと駆除できなかったりということもあります。そこで、摂氏25度で二酸化炭素濃度60%から70%の状態を2週間維持するという実証実験に基づいた条件で処理をしています。ほら、そちらに見える2つが二酸化炭素処理をするバッグです」
末森先生が示した先を見る。バッグとはいうが、でかい。軽トラックが入るサイズの車庫のような形をしたビニールハウス状のシステムが2つ並んでいる。バッグは二酸化炭素などのガスを通さない素材で、ジッパーを閉じることでガスが漏れないようになっている。
このなかに、殺虫処理を施す資料を入れ、ジッパーを閉め、液化二酸化炭素を気化させて投入する。
「二酸化炭素は気化させると、からからの乾いた状態になっちゃうんですよ。乾燥によって資料に割れや歪みが起きてしまうので、調湿した二酸化炭素を流し込みます。あと、二酸化炭素は重くて下に溜まるので、バッグのなかの二酸化炭素濃度を均一にするためにサーキュレーターを回します」
もしも人が入ったら…
そんな難しさがあるとは。殺虫処理を施すために大切な資料を破損してしまっては洒落にならない。責任が重い作業である。
「あの……もしこのなかに人が入ったら……?」
「死にますね」

















