「胃がん」「前立腺がん」そして「軽度認知障害」…山本學が抱える【自身の病気を語ること】への葛藤
「申し訳ありません。もう1度お願いします。私が生意気でした。気分を直してください」と謝ってから1時間が経過。彼は黙ってセットの椅子に座り、「やりましょう」と言ってくれました。
さすがに名優でした。分をわきまえた芝居を展開して、見事な演技を見せてくれました。僕は感心して、素直に頭を下げていました。
朝田 お二人の丁々発止の演技の裏には、そんなことがあったんですね。
ドラマの中の「里見先生」に対するさまざまな反応
山本 ほかにはこんな経験もあります。福岡での文化講演会で話し終えたところ、客席から着物姿のおばあさんがチョコチョコと出てきて、演壇の前に膝を落とし、「先生、私を診てください。どうしても先生に診ていただきたくて、直方(のおがた)から来ました」と、床に頭をこすりつけたのです。
その真剣さに、帰りかけていた人たちも一瞬静まりかえり、その場を見守っていました。そして「すみません、私は医師ではないですよ」と言う僕に、「そんなこと言わずに、どうか先生、私を診てください」と涙しているのです。
僕は主催者に病院の紹介を頼みながら、「ありがとう、おばあさん。そんなに一生懸命ドラマを見てくださって、役者冥利につきます。これからは一層真剣に演じます」と心の中で手を合わせ、ともに涙していました。
ところが、それから1カ月ほど過ぎた頃でしょうか。今度は、東京女子医大病院(東京・新宿)のそばにあったフジテレビ前の、一膳飯屋で昼を迎えたときのことです。
美人の、女医さんとおぼしき方とその仲間との相席で、食事がくるまでなんとなく言葉を交わしていました。
「テレビ拝見してます」
「ありがとう。面白いですか?」
「面白くて、下宿までタクシーを飛ばして見ています」
と言ってくれたのですが、そこからがすごかった。

















