保険会社と銀行が激突する日がやって来る 保険の世界に銀行という「黒船」が到来したら?

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今後、保険と金融の融合が進むと、現在の保険の「保障機能」のかなりの部分が、銀行の「金融機能」に取って代わられる可能性は否定できません。その結果として、保険から銀行への顧客シフトも考えられるでしょう。医療保険、ガン保険、学資保険あるいは少額の死亡保険などの保険をやめて銀行の新商品に切り替える人が出てくるかもしれません。「保険よ、さようなら。銀行よ、こんにちは」です。

これが保険と金融の融合がもたらす予想シナリオのひとつです。金融は銀行の得意とする本来業務です。金融の土俵の上での勝負は保険業界にとって大変、部の悪いものとなります。このことは別な見方をすれば、金融化されてしまうような現在の保険商品には、何か本質的な限界があるということを意味します。

現在の保険の限界を乗り越える試みのひとつが「現物給付」です。それは、現在のように保険金を払えばそれでおしまいの保険、つまり「現金給付」の保険からの脱皮を意味します。おカネだけでなく、消費者に安心、安全サービスを現物で提供していく発想です。

保険金や給付金のかわりに、リアルなサービスや物品、つまり「現物」を提供する考え方です。医療サービス、介護サービス、老人ホームの提供、葬儀サービス、定期健診、スポーツジム、食事管理など健康増進や病気予防のためのサービスなどです(多くの自動車保険に付けられている示談代行や車の修理サービスなどは「現物給付」です)。

保険会社の提供すべきサービスとは何か?

従来の「現金給付」の保険に、「現物給付」の発想を組み合わせることで、保険会社が提供できるサービスの範囲は飛躍的に広がります。この発想は、人々の生活に本当の安心・安全を提供する、という意味で保険の原点に立ち返ることでもあります。

生命保険はLife Insuranceの日本語訳ですが、生命保険本来の社会的使命を考えれば「生活保険」と訳すべきでした。「明治の先人たちが生命保険と訳してしまったために、保険は人の生死を取り扱うという枠組みに自らを閉じ込めてしまった」。このように嘆いた保険経営者がかっていたそうです。この「生活保険」の発想こそ、今まさに求められている視点のように思います。

保険業界が「現金給付」の枠に縛られ続ける限り、遠からず保険の「保障」機能は金融に取って代わられる可能性があります。この動きを先行する再保険市場では、1990年代からすでに保険と金融の融合が目覚ましい速度で進んでいます。今のところ、この動きは企業向けの保険に限られていますが、いずれ個人の保険にまで広がってくることは十分に予想されます。

保険会社の果たすべきミッションとは何か。保険業界にとって、まさに正念場です。熾烈な銀行との競争が始まろうとしています。銀行という「黒船」の帆影が、水平線の向こうに大きく見え始めているのです。

橋爪 健人 保険を知り尽くした男

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はしづめたけと / Taketo Hashizume

1974年東北大学卒、1984年米国デューク大学修士。日本生命保険に入社後、ホールセール企画部門、米国留学、法人営業部門を経て米国日本生命副社長。帰国後、損保会社出向、ジャパン・アフィニティ(保険ブローカー会社)代表取締役を経て2004年独立。企業向け保険ビジネスのコンサルタントとして活動。著書に『日本人が保険で大損する仕組み』(日本経済新聞出版社)

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