音楽祭における働かせ方の 是非を考える前に、アヤさんのキャリアの話をしよう。
就職氷河期世代に当たるアヤさんはこれまで一度も正社員になったことがなく、長年“不本意非正規”として働いてきた。
大学時代の就職活動では内定を得ることができず、大学院に進学。このころ英語教室の講師のアルバイトを始める。月収は10万円ほどだったが、正社員登用の話もあったことから中退して本格的に働くように。
ところが、この会社が1年足らずで倒産してしまう。その後は英語の個人レッスンをしながらダブル、トリプルワークをして食いつないできた。
いくら働いても月収10万円
「アルバイトでもなかなか見つからない時代でした。手当たり次第働いても、月収10万円が当たり前。派遣会社は20社以上登録しています」
非正規労働者として経験してきた現場の多くは、“無法地帯”といってもいい有様だった。なかでも着替えなどの準備が無給扱いにされることや、一方的に定時よりも早く退勤させられることは、「非正規あるある」だったという。
ある食品工場では、30分前に出勤して制服への着替えや手洗いをするよう命じられたが、その間は無給。制服のポケットチーフの位置から髪型まで厳しくチェックされる職場でも、時給が付くのは5分だけだった。
アルバイトなどが仕事に必要な着替えを更衣室などで行う時間は原則、労働時間とみなされる。そして労働時間は1分単位で計算しなければならないと法律で決まっている。たとえ1分とはいえ、月単位や年単位ではそれなりの金額になり、時給で働くことが多い非正規労働者にとっては看過できない問題だ。
アヤさんは派遣会社の担当者に、そう伝えたこともあるが「そこはグレーゾーンだから、問題にはならないんだよね」と聞き流されたという。
また、終日の契約だった農作物の仕分け作業中に、突然「午後の仕事はなしね」と言われたり、飲食店で「今日は暇だから帰っていいよ」と、定時前の退勤を促されたりすることもたびたびあった。法律で定められている休業手当が支払わることはほとんどない。
アヤさんは「『早く帰れてラッキーだね』と言わんばかりで口ぶりで、違法なことをしている自覚がないんです。使用者にはちゃんと労働法を勉強してほしい」とあきれる。
ある工場の更衣室での着替え中にめまいで倒れたときは、労災保険が適用されなかった。
意識を失っている間に救急搬送されたが、その際、社員から「更衣室での出来事は労働時間じゃないから、労災(適用)は厳しいね」と告げられた。体調はすぐに回復したが、CT検査の費用など約2万円を自己負担したという。
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