それから、雑誌などの請負仕事の合間に月1~2回のペースでピクスタで販売する写真の撮影を始めた。撮影には、モデル料、モデルのヘアメイク、スタジオ代など、それなりに経費がかかる。だが、最初の2年ほどは売り上げた金額をすべて製作費につぎ込んだ。地道にクオリティの高い作品のみを撮影することが重要だと考えたからだ。その方向性は正しかった。ピクスタを始めて3年目には、販売金額1位のトップクリエーターになっていた。
フリーランスだからこそ悩む「働き方」
2年前には自分のスタジオまで構える売れっ子カメラマンとなった山崎さん。だが、出産を機に思ってもいなかったような生活の変化がやってくる。
2015年1月に第1子を出産。撮影の仕事を続けるために、生後3カ月で子どもを認可保育園に入園させたものの、思うようには仕事ができなくなった。発熱などで保育園から呼び出しがあるのは日常茶飯事。民間の病児保育サービスを利用できるようになる生後6カ月までは、仕方なく子どもをおんぶしながら撮影現場に向かったこともある。子連れ撮影となってはアシスタントを同行させざるをえず、アシスタント料を支払うと撮影料が手元にほとんど残らないこともしばしばだった。「アシスタントに機材をセットしてもらい、撮影中は子どもを抱っこしてもらっていました。保育園に入れさえすれば仕事に集中できると思っていたので、いろんな意味で想定が甘かったのです」。
仕事と育児の両立はやっぱり難しい。撮影日に園から呼び出しがかかるなどのリスクを考えると、雑誌や広告などの請負仕事は出産前のように数多く入れることはできない。育児と仕事の両立を補完するうえで、ピクスタの撮影は経済的にも時間的にも、もはや欠かせないものとなっていた。そもそも、ピクスタの売り上げがあれば、請負仕事がなくてもやっていける。だが、「自分の中から出てきたものだけやるのは嫌なんです。撮影依頼を受けて発注元から『何か違うんだよね』などと言われて試行錯誤するようなこともやっていかないと、幅が狭まってしまいそうで……」。これは、作品を生み出すクリエーターとしての強い思いだ。
現在は、週2回程度だけ請負の撮影を受ける形に落ち着いている。週2回なら、もし子どもが体調を崩しても、病児保育を利用したり母親の手を借りたりすれば調整ができる。請負の撮影日以外は画像処理などのデスクワークに充てたり、月1~2回ほどでピクスタの企画・撮影などを行ったりしているという。
がむしゃらに撮影の仕事をこなしてきた20代、ピクスタという新たな舞台を見つけてトップクリエーターにまで上り詰めた30代。現在は子育てとの両立に悩みながらも、自分のペースを見出しつつある。こうしてカメラマンとしてのキャリアをさらに積んでいくに違いないが、「今後の目標は」と尋ねてみると、山崎さんは「自分が今後どうなりたいのかわからないんです」と悩みを打ち明ける。
出産や子育てによって、女性の働き方は大きく影響を受ける。フリーランスなら仕事の量や時間をある程度は調整できるが、だからこそ選択の幅は広く、方向性を定めにくいことは確かだ。山崎さんは「育児との両立は思いのほか大変だけど、第2子もほしい」とも話す。そうなるとやはり、今すぐに方向性を決めることはできない。揺れる気持ちを抱えながらシャッターを切り続けている。
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