日本の「食」と「零細企業」は外国人労働者が支えている 「犯罪抑制か、零細企業の存続か」トレードオフの現実

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これは、英語の諺にある「You can't have your cake and eat it.(ケーキを持っていることと、それを食べることを両立はできない)」という状況そのものです。零細企業を存続させるためには若い外国人労働者が必要だが、それに伴う犯罪率の上昇は受け入れられない、というのは、表裏一体である事象の片方だけを都合よく肯定し、もう一方の当然の結果を否定する非論理的な主張に他なりません。

言うまでもなく、現在多くの企業が直面している問題の核心は「人手不足」です。したがって、減税や積極財政といった金融政策では労働人口そのものを増やすことはできず、根本的な解決策にはなり得ないのです。

付加価値を高め、賃金を引き上げるのが王道だ

私は以前から、人口減少下で人材確保が困難になる以上、企業が生き残る道は、付加価値を高め、賃金を引き上げていく以外にないと主張してきました。

現状維持のためだけに外国人労働者を増やし、それに伴う犯罪の増加を甘受するという選択肢も考えられますが、私はその道に反対します。なぜなら、そもそも現状を維持する必要はないからです。

本来目指すべきは、経営資源の集約、差別化、イノベーションの追求を通じて付加価値を高め、輸出を拡大し、賃金を上昇させるという好循環です。そのためには、中小企業同士の連携や統合が不可欠となります。

この構造的な課題は、消費税廃止や積極財政といったマクロ経済政策で解決できるものではありません。これらの政策が有効なのは、あくまで人口が増加し、失業率が高い経済です。労働力そのものが不足している人口減少国家に同じ処方箋を適用しても、効果は期待できないのです。

積極財政派は「教科書には、不況時には減税と財政出動で経済は成長すると書かれている」と主張します。しかし、その教科書が前提としているのは、人口が増加し、労働力に制約がない時代の経済モデルです。

彼らの主張は、現代の日本が直面する課題を無視した、経済学の表層的な理解に基づいていると言わざるを得ません。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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