あのNHK気象キャスターは、努力の人だった

夢を諦めなかった女性の試行錯誤の15年

新天地・大阪で気象キャスターとしてデビューを果たしたが、気象予報に必要な土地勘はおろか、地名の読み方すらわからない。自分以外に気象キャスターがおらず、わからないことはすべて自分で解決するしかない。そんな孤軍奮闘の環境の中、体当たりで経験を積み、井田さんは力を付けていく。

「いつかはもっと影響力のある東京で仕事がしたい」。そんな夢と現状とのギャップもあった。だが、この大阪での3年間もまた「やりたいことを実現するために必要な力を身に付ける時間だった」と井田さんは振り返る。

「大阪にいた3年間で、いろいろな現場で取材し、たくさんの気象災害に触れました。私が東京に行くチャンスを掴めたのも、大阪での3年間を認めてもらえたから。最初から東京で気象キャスターとして仕事をしていたら、きっと通用しなかったと思います」

諦める勇気より、踏み出す勇気を大切にしたい

大阪での経験を経て、NHKの看板ニュース番組『ニュースウオッチ9』のオーディションに見事合格した井田さんは、2011年度から東京で、同番組の気象情報の解説を担当している。中でも忘れられない仕事のひとつが、2013年の『長岡まつり大花火大会』のレポートだ。

その年、県内を襲った集中豪雨により同大会は開催そのものが危ぶまれていた。だが、井田さんは「絶対に中継がしたい」と番組に提案し続けた。

「長岡の花火は、新潟中越地震などの自然災害の慰霊や復興の願いが込められた特別な花火。だからこそ中継を通じて花火の美しさを伝えることで、災害を乗り越えた皆さんに元気になってもらいたかったんです」

オンエアを終えた井田さんのもとに、視聴者からは感動と感謝の声が殺到した。自然の美しさと厳しさを伝えたい。井田さんが長年温め続けてきた夢がカタチになった瞬間だった。

「もちろん夢に向かって一歩踏み出すには勇気がいります。でも、諦めるのにもまた勇気が必要。だったら一歩踏み出して、やりたいことをやるために努力をした方が人生は楽しい。それに、一歩踏み出した先には面白いことや幸せなことがたくさん待っている。それを知らないのはもったいないと思うんです」

就職氷河期と重なって、希望の業界や職種に就けなかった人。第一志望の企業に入社したものの、望まぬ部署に配属されてしまった人。本当はやりたいことが別にあるのに、一歩踏み出せないままくすぶっている人は、きっとたくさんいるだろう。

「私も20代後半のころはすごく焦っていたし、新卒でアナウンサーになった人を見て羨ましい気持ちになったこともありました。でも、回り道をしたおかげで、人と違う経験が積めた。やりたいものに向かって何かを得ようとする限り、どんなこともプラスになる。夢の実現の方法は1つじゃない。無駄なことなんて何一つないことを、多くの人に伝えたいですね」

それだけやりたいことに出会えた井田さんのことを、もしかしたらその時点で特別だと思うかもしれない。けれど、どんな人でも心の奥底を掘り起こしていけば、必ず何か一つは好きなものややりたいことが見つかるはず。その小さなかけらを大きな夢へと育てていくかは自分次第。勇気を持って一歩踏み出したとき、あなただけの物語が静かに輝き始めるのだ。

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