うつ病、アレルギー性鼻炎の症状が改善…中国の長寿の村で発見、研究者が注目する乳酸菌とは?――腸内細菌研究の最前線《医師が解説》

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縮小

がん領域でも重要な知見が得られている。

オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害薬の効果は、患者の腸内細菌叢の構成によって左右されることが臨床的に確認されている。

特に Akkermansia muciniphila (アッカーマンシア・ムシニフィラ)という菌種が存在すると、奏効率(治療でがんが縮小・消失した割合)が高まるとされ、治療成績を左右するカギとして注目されている。

なかでも近年、注目を集めているのが「腸–脳相関」である。腸内細菌が作り出す代謝物や炎症シグナルが中枢神経系に作用し、神経疾患の進行に関わる可能性が報告されているのだ。「腸は第2の脳」とも呼ばれる所以でもある。

腸内細菌の研究が進展した背景

腸内細菌叢の研究が飛躍的に進展した背景には、計算能力の向上がある。

ヒトの腸内には数百兆もの細菌が共生しており、そのゲノム総量はヒトゲノムをはるかに上回る。従来の計算技術では、この膨大なデータを解析することは困難だった。

ところが近年、スーパーコンピュータやクラウド基盤を活用した大規模演算処理が可能となり、腸内細菌叢の同定から、腸内細菌が担う代謝経路や機能的ネットワークの動態まで解明できるようになった。

日本でもスーパーコンピュータ「富岳」を用いた腸内細菌研究が進められており、膨大な遺伝子データを統合解析することで、炎症性腸疾患やがん、精神疾患と腸内細菌叢の関係が明らかになりつつある。

腸内細菌叢研究を世界的にリードする国の1つが中国である。その背景には、膨大なデータを解析できる計算能力の高さがある。

中国はスーパーコンピュータの性能や稼働台数で世界トップクラスに位置し、腸内細菌ゲノムやメタボローム(代謝物の包括的解析)などの膨大なデータを処理できる体制を整えている。

国家的な研究投資や産学連携も強力で、腸内細菌と疾患の関連解明、治療応用の臨床試験まで迅速に展開できる環境が整っている。

そんななか、中国農業大学を中心とした研究チームから「腸–脳相関」に関する興味深い2つの臨床研究が発表された。

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