「面白かった」しか言えない人へ…哲学者が教える「感想を自分の言葉できちんと"言語化"できるようにする」ためのコツ

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

その静けさがどうやって生み出されたのか、あるいはキャラクター同士のやりとりや舞台となる環境がどのように変化していったのかといった前後の流れや背景まで視野に入れて語り直してみましょう。

作品全体のテーマや登場人物たちの関係性、さらには自分がそこにどんな思いを重ねたのかまで考えを広げると、「夜の静けさが素敵だった」という言い切りから、より奥行きのある体験や感想が立ち上がってくるでしょう。

こんなふうに、自分が素敵だと感じた「点」を「線」に変えていくことで、独自の視点をより強固にし、ただの思いつきや印象論では終わらない深みへとつなげていくことができるのです。

自分の発見やアイデアの面白さを他者に伝えるとき、点を羅列するより「線として語る」ほうが、結果的に説得力やインパクトが増していきます。

「カギ括弧」で意味を持たせる

最後のステップとして、自分が何度も使っているフレーズやキーワードにあえてカギ括弧をつける、という方法があります。これは、自分にとっての重要ワードを意識的に概念化するための手段です。

たとえば、ふつうはネガティヴな意味合いで使われる言葉をポジティヴなものとしてカギ括弧をつけて使っている。それによって、新たな発想で捉えたり、通常は言語化できていないニュアンスを表現したりできるようになります。

たとえば、ある小説家のスタイルについて語るときに、「あの作家の人物描写には、『優しさ』がある」と表現してみるとしましょう。ここでいう『優しさ』とは、単に温かく見守るとか、甘やかすといった意味ではありません。

むしろ、「相手の自立を信じてあえて突き放す厳しさ」や「どうしようもない現実を、ただ静かに肯定する眼差し」といった、複雑なニュアンスを含んだものとして定義するのです。

このように自分の中で独自に捉えた「優しさ」という言葉を手がかりにすると、「初期の作品と比べて『優しさ』の質が変わってきた」というように、その作家の世界をより深く、一貫した視点で読み解くことができます。

それはもはや、一般的な意味での「優しさ」ではなく、その作家を語るうえで欠かせない、自分だけの批評用語になっていくのです。

次ページはこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事