「ここにも平蔵が来ている、あそこにも平蔵が出張っていたというように思って、町人どもはうまくだまされているらしい」
この作戦の欠点は、提灯の数がやたらと必要になる、ということ。通常ならば、火付盗賊改の長官は、着任時に自家の定紋入りの高張提灯を30張作るところ、平蔵は自費でその倍も作っていたという。
松平定信は『宇下人言』に、平蔵について「冴えすぎたことをするがゆえに、危うさがあると陰でいう者もいないでもない」と書いている。ややスタンドプレーに走るところは、周囲の役人から反感を買いやすかったらしい。
だが、火事場となれば、平蔵を思わせる提灯がすぐさま現れれば、人々は安心し、火事場での混乱も最小限に食い止められる。消火活動もやりやすくなるため、メリットが大きい取り組みだといえる。
真刀徳次郎という名高い盗賊をとらえるなど、着実に実績を積んだ平蔵。「捕物名人の平蔵様」と庶民の喝采を浴びることになった。
平蔵はその人柄でも人気を博したようだ。借金を重ねることになっても、組子の与力同心にご馳走して酒をふるまった。町人が夜中に囚人をつれてきたときもさっそく引きとって、町人に蕎麦などを注文してふるまう気前のよさを見せている。
また、かつて老中だった田沼意次の屋敷の近くで火事が起きたときも、平蔵はすぐに田沼邸にかけつけて「お屋敷の風向きが悪しくござる」と告げて下屋敷に避難させた。これだけでも十分な気遣いだが、その屋敷に餅菓子を手配させたというから、「かゆいところに手が届く」とは、このことだろう。
犯罪者の更生施設「人足寄場」を設立
そんな気配り上手で、サービス精神が旺盛な平蔵。盗賊をとらえるだけではなく、その先に犯罪者を更生させることまで考えていた。
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