現在も現役で仕事をする髙森さんだが、70代まではさらに忙しく、食事は夜ご飯だけなるべく自炊するという生活だった。その夕食も、夫婦で外食することもよくあったという。
「昭和生まれの夫ですが、昔から、妻が毎日食事を作る必要はないという考えの人で、その思考は現在も変わりません。食事の準備や分担でケンカしたことはなく、私は自宅でもマイペースで仕事に集中できたのです。
そういう仕事を中心とした“無理しない”食生活が、台所をリフォームした翌年から自宅で3食作って食べる生活に変わりました。
肝臓がんの手術をした夫の療養や、コロナ禍で私が仕事を休業したことなど変化の理由はありますが、もし環境の変化がなかったとしても、老いていく体がちょうどいい食事を求めていたと思います」

83歳にしてはじめて「1日3食の自炊」

体と環境の変化を甘受した髙森さんは、83歳にして人生ではじめて1日3食の料理を作る生活に移行した。
「夫が元気になったのをいいことに、朝、昼は時々なまけますが、夜はほとんど作っています」
「もしかして人間には、一生のうちで作る料理の量が決まっているんだとしたら……」と髙森さんは考える。
これまであまり自炊してこなかったため、おそらくまだ7割方残っているであろう自分の持ち分を、ようやく今、せっせと使うときがきたのではないか。
使い勝手のよい台所の食器引き出しで、手になじんだ器たちが出番を待っている。その多くは輪島の漆器だ。彼の地の作り手あってこその心地よい食卓ーー。
能登半島地震から1年8カ月。なんとか立ち直ろうと努めている作り手やその家族たちに思いを馳せながら、髙森さんは日々、夫婦にちょうどいい食事を作り、漆器使いにいそしんでいる。

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