《進取》の早稲田・《独立自尊》の慶應・《良心》の同志社、伝統私学が「らしさ」を持つに至った歴史的背景
「ブランドの『らしさ』を、時間の経過とともに蓄積される価値観や行動様式の『厚み』として位置づけている。『らしさ』は、単なる視覚的イメージや標語ではなく、企業の理念や商品開発の姿勢、顧客との関係性などが相互に作用して形成されるものだ。ブランドが進化する過程でも、その本質的な核として機能し、変化に耐えうる同一性を保ち続ける。『らしさ』が企業の成長を導く秩序ある力であり、時代の変化に対応しながらも一貫性を維持するための指針となる」
この定義は企業を対象にしているが、大学における「らしさ」について考えてみたい。明治維新前後に設立した前身校を起源とする多くの大学は、創立者の精神が色濃く残り、今も引き継ごうと努めている。それにもかかわらず、世間どころか在学生でさえ、その理念や歴史をあまり意識していないのが実情だ。
そこで、日本の近代高等教育の扉を開いた象徴的存在であり、創(設)立者同士の関係性が際立つ慶應義塾、同志社、そして早稲田(設立順)を事例にして、「らしさ」が生まれた土壌を掘り起こしてみる。
ちなみに、このような一文を書くと、「なぜ早慶と同志社を並べるのか」といった声がネット上に出てくるのが昨今の風潮だ。
大学の価値とは、入試の難易度ではなく、どのような理念を掲げ、どのような人材を育ててきたかという実績に表れる。それは必ずしも、政治や経済界などの表舞台で成功した人だけを意味していない。実務で日本、地域、家族を支えてきた裏方の誇り高き人々も含む。
では、どのような理念が「人生を導く軸」となり、学びを「生きる力」へと昇華させるのか。まずは、これら東西3伝統私学の現トップが語る言葉に耳を傾けてみたい。
慶應の塾生でも意外と知らない「分校」の存在
今年11月に創立150周年を迎える同志社で3月11日、「同志社・慶應・早稲田が考える教育の未来 ~私学の役割と人材育成~」(朝日教育会議2025)が開催された。鼎談「変化の時代、切り拓く人材を」には、慶應義塾の伊藤公平塾長、同志社の八田英二総長、早稲田大学の田中愛治総長が登壇した。
八田総長は同志社の強みである「多様性」に触れ、「多様な価値観を理解し、グローバル社会で通用する人材を育てる」ことを強調した。伊藤塾長は慶應の理念である「独立自尊」の精神について「個を立てる。それができる人を育てる」と述べた。田中総長は早稲田の「学問の独立」の重要性を訴え、「地球規模の課題解決に貢献できる知性と教養を持つ人材を輩出する」と語った。
これら3校のうち最も古い慶應義塾は、1858(安政5)年に、中津藩中屋敷内で藩士・福澤諭吉(以下、敬称略)が蘭学を教授したのが起源とされる。中屋敷は、現在の東京都中央区明石町の聖路加国際病院の建物あたりにあった。現在は病院前の交差点ロータリーに「慶應義塾発祥の地記念碑」があり、『学問のすゝめ』初編初版本の活字と同じ字形で「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」と刻まれている。
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