これは心理学でいう「集団同調性バイアス」の典型例だと捉えられる。「みんなが観ているから、自分も観なければならない」という無意識の圧力。それが多くの人の行動を決定づけることもあるのだ。
別の例を紹介しよう。よく知っている経営者のほとんどが、近年サウナにはまっている。サウナに興味がないと私が言えば、
「なんでサウナが嫌いなの? 意味がわからない!」
といった反応が返ってくることがある。「今どき、サウナに興味がない人なんているのか?」という雰囲気すら漂う。ブームになったら、論理的な理由など必要ない。「みんなが、はまっている」という空気が、人を動かす強い力になるのだ。
職場で起きている「論破の限界」
一方、職場ではどうか。
リーダーは必死に論理で説得しようとする。「このやり方が効率的だ」「データを見れば明らかだ」「他社の成功事例もある」と演繹法、帰納法などで説得を試みる。しかし部下の反応は鈍い。特にZ世代と呼ばれる若手社員たちは、論理的な説明を聞いても心が動かないように見える。
それは彼らが「しっくりくるかどうか」で判断しているからではないだろうか。どれだけ正しくても、しっくりこなければ動かない。逆に論理的でなくても、共感や納得感が得られれば自然と動き出すことがある。
ある営業会社での出来事だ。
課長が新しい営業手法を導入しようと、パワーポイントで資料を作り、成功事例や期待される効果を数字で説明した。部下たちはその時は頷いて聞いていたが1週間後、誰も新しい手法を使っていなかった。
そこで課長は作戦を変えた。まず自分が新しい手法で契約を取り、その成功を具体的に見せた。それを見た1人の若手が「自分もできるかも」と思い、真似をしはじめた。すると他のメンバーも「それなら自分も」と次々に試しはじめたのだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら