「彼らの影響力を過大評価することは、『事実』という概念そのものを侵食し、選挙結果や公共機関への不信を植え付ける効果を持つ可能性がある」(Adversarial Threat Report/2024年5月/Meta)――これはメタが公表している敵対的脅威に関するレポートの文章だが、SNSに扇動された人々、誤った情報を信じた人々が特定の政党を押し上げたという理解がまさにこれに当たる。それがエスカレートすれば、「選挙が盗まれた」という陰謀論を助長しかねない。
そうなると、政治家をはじめポピュリズム政党の支持者を正当な存在とはみなさなくなる傾向を促進することになる。これは一種の「他者化」といえるだろう。
他者に否定的な属性を投影し、悪魔化するしぐさのことで、自己の正当性を確認することとセットになっている。移民を排斥する極右が例示されることが多いが、ポピュリズム政党の支持層を「バカ」「情弱」「知性の劣化」などと人間性の問題にすり替えることも同様なのだ。
それはマーケティングの過大評価と相まって、極度の他者化を推し進める口実になってしまう。だが、選挙はそんな生やさしいものではない。参政党も地道な組織づくりが基盤になっており、全国に287ある政党支部が自主的に活動してきたことが飛躍につながっている。また、自分たちの声が肯定的に受容され、居心地の良いホームとなる「コミュニティの誘惑」も大きな原動力となっている(「参政党人気」の深層にある深刻な孤独の“正体”)。
パーセプション・ハッキングの弊害が深刻化すれば、政府や与党はSNS規制の理由として影響工作の可能性を利用し、反ポピュリズムの立場の人々は、とにかく敵対勢力を根絶する機会にしようと躍起になることが懸念される。皮肉な話だがそれによって犠牲になるのは民主主義そのものである。
レッテル貼りと規制がコミュニケーションを閉ざす
さらには、ポピュリズムが台頭する背景要因である「自国は衰退している」と感じる人々が7割に上るといった社会状況を矮小化することにもつながりかねない(参政党人気「理解できない」人が見誤る熱狂の“本質”)。
しかも、支持者からしてみれば、このようなレッテル貼りと規制のほのめかしは、被害者意識を増幅させ、より外部に対するコミュニケーションを閉ざす原因となる。
なぜ、影響工作が堂々と暴露されているのか。おそらくそれは第一義的に政治の信頼性そのものを貶めるためである。
自らの党派性やイデオロギーに凝り固まった人々ほど、喜んで飛び付く現象が観察されたことはかえって教訓となった。わたしたちは沸騰しやすい感情という檻の外に一旦出る必要があるのだ。
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