「ヴォストーク」(ロシア語で「東」を意味する)という会社に参政党から巨額の支出があったというウソのような本当の話も臆測を生んだ。
しかしながら、まるで他国による介入によって政党の支持率が膨れ上がり、かつ選挙結果にまで影響を及ぼすかのようなミスリードを誘う主張は厳に慎むべきだろう。それこそ何の根拠もない陰謀論になるからである。
サイバーセキュリティの専門家で、デジタル影響工作に詳しい一田和樹氏は、今回の件を受けて、海外からの干渉で想定が必要な5項目を挙げている。
①干渉の影響の評価は難しく、干渉の証明も難しい、②近年の干渉の多くは効果がないことが多い、③報道は過剰になる傾向がある、④過剰な報道は社会不安を煽る、⑤暴露されることで、影響を与える作戦もある――だ(海外からの干渉について想定すべき5つのこと/2025年7月17日/INODS UNVEIL)。
とりわけ②と⑤は、一般的にはあまり知られていない事実かもしれない。例えば、「カナダで公開された報告書では、干渉そのものの影響よりも、メディアによる不完全な形でのリーク情報の公開によって国民に不信感と不安が広がった影響が大きかったと評価している」と述べている。後述するが、このことは非常に重要である。
参院選における海外からの干渉を指摘する「参政党躍進の背後にロシアの情報工作」という趣旨の記事は、もともと有名ブロガーが書いたものであったが、それがウェブメディアに取り上げられ、政治家までが言及することで次第に浸透していった経緯がある。
その内容をかいつまんで言うと、ネット上では「認知戦」という偽の情報や心理操作によって、相手の認識や行動を意図的にコントロールする戦略が展開されており、参院選を前にロシアによる大規模な情報工作が行われていると主張するものだ。
ロシア製ボットがデマなどに基づく政府批判や石破政権批判などの動画や投稿を百万再生単位でバズらせているという現状について、生成AIやボットの動向などの分析を踏まえながらレポートしたものであり、結果的に「日本人ファースト」など排外主義をあおる投稿が激増し、参政党などに支持が集まるようになったと結論付けている(ただし、末尾に調査手法については回答できないとある)。
ネットでの影響工作自体に驚きはないが…
SNSをはじめとするネットでの影響工作に関しては、一定程度は認知されており、それが行われていること自体に驚きはないだろう。
だが、差別的な主張が前述のボットによって広範囲にブーストされ、仮に多くの人の目に触れたとしても、それが実際に参政党の支持者の拡大につながっているかどうかや、投票行動にまで影響を及ぼしているかどうかはまったく別次元の話である。
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