日本発の「政策提言AI」が警告! 「地域分散」か「グリーン成長」か 「地球社会の未来シナリオ」は「2034年までの選択」がカギを握る

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最後に、多少手前味噌になることを承知のうえで、本研究の意義そして今後の課題について述べさせていただきたい。

今回の私たちの研究は、「政策提言AI」(未来シナリオシミュレーター)の技術を活用して地球社会の未来についてのシミュレーションを行ったものであり、かつてローマ・クラブが公表し、当時における最新のコンピュータ技術を活用したシミュレーションを通じて地球資源の有限性に関する警鐘を鳴らした『成長の限界(Limits to Growth)』(1972年)の“AI版”と呼びうる試みともいえる。

この場合、『成長の限界』は基本的に資源・エネルギーに関する側面に主たる関心を向けたものだったが、今回のシミュレーションはそれらに加えて地球温暖化、経済と格差、先進国と途上国の関係性、ウェルビーイングやソーシャル・キャピタル(社会関係資本)など、環境・経済・社会の全体を包含する、より多元的かつ現代的な諸要因を視野に収めた内容となっている。

ちなみに『成長の限界』の流れをくむ最近の試みとして『万人のための地球(Earth for All)』報告書(2022年)があり、同報告は資源・環境に関するモデルと社会経済的視点を複合化した優れた側面を持っている。

しかしそこで導出された未来シナリオはいささか単純で(「Too Little, Too Late(小出し手遅れ)」と「Giant Leap(大きな飛躍)」の二者のみ)、またシミュレーションの方法自体も若干不明確な面がある。

日本からの発信

以上、独自に開発したAIを活用し、地球社会の未来について私たちが行ったシミュレーションについて述べてきた。今回のシミュレーションは、なおデータ収集やモデルの作成方法等々において課題を残すものであり、今後一層の改善に努めていきたいと考えている。

本シミュレーションの結果を踏まえれば、地球レベルでの環境に関して望ましい未来に向かうか否かの分岐は2034年頃までの早い時期に生じることが示されており、早急な対応を行っていくことが求められる。

またいずれにしても、本研究に示されるような形で、AI等の最新技術を活用しながら地球社会の未来に関する定量的なシミュレーションを行い、実現していくべき未来像と行うべき対応についての議論を進めていくことが重要であり、本稿で述べた試みを含め、“日本からの発信”をさまざまな形で進めていくことがいま求められているのではないだろうか。

広井 良典 京都大学名誉教授

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ひろい よしのり / Yoshinori Hiroi

1961年岡山市生まれ。東京大学・同大学院修士課程修了後、厚生省勤務後、96年より千葉大学法経学部助教授、2003年より同教授。この間マサチューセッツ工科大学(MIT)客員研究員。2016年より京都大学教授。専攻は公共政策及び科学哲学。限りない拡大・成長の後に展望される「定常型社会=持続可能な福祉社会」を一貫して提唱するとともに、社会保障や環境、都市・地域に関する政策研究から、時間、ケア、死生観等をめぐる哲学的考察まで幅広い活動を行っている。著書に『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書、大佛次郎論壇賞)、『日本の社会保障』(エコノミスト賞受賞、岩波新書)、『人口減少社会のデザイン』(東洋経済新報社)など。

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