教育改革の嚆矢となる「シモキタカレッジ」の挑戦 「互いからの学び」に込めた教育起業家の思い

堀内:前回、アメリカの大学におけるリベラルアーツ教育において、寮(カレッジ)の果たす役割が大きいというお話をいただきました。初めに、アメリカやイギリスの大学における寮の役割についてお聞きしたいと思います。
日本で学生寮というと学生運動を想起させるので、大学関係者からはあまりよいイメージを持たれないということがあると思います。それから、同じ寮と言っても、アメリカとイギリスではまた内容が違うのではないかと思いますが、その点について教えていただけませんでしょうか。
新入生のほぼ全員が入寮を希望
小林:ハーバード大学では、1年生のときは全員が強制的にキャンパスの真ん中にある学寮に入ります。その後、2年への進級時に12の「ハウス」と呼ばれるカレッジ、すなわち学寮にランダムに振り分けられます。『ハリー・ポッター』にも出てくる「組み分け帽子が叫んで寮が決まる」というようなイベントですね。
正確に言うと、寮に住まなければならないのは1年生のときだけで、2年生以降は一人暮らしも選択できるのですが、例えばキャンパス徒歩5分に実家があっても、ほぼ全員がお金を払って寮に入ります。それだけ、大学と教育の中心にカレッジでの体験があるのです。
カレッジが担う教育的な意義のひとつは、学生の日常を丁寧に編集し、異なる背景を持つ人々のあいだに偶発的な交流を生み出すことにあります。たとえば、物理学を専攻する学生と哲学を学ぶ学生、学生アスリートとバイオリニスト。
あるいは、ノーベル賞を受賞した教授と、ボストンで働く卒業生の弁護士。普段の生活では交わらない2人が、世代や専門を超えて同じ時間と空間を共有する言い訳となるのです。
仮に、私が堀内さんと話がしたいとなれば、何らかの理由や目的が必要になりますよね。例えば、日本に一時帰国したので話しませんかとか、プロジェクトのことで少し相談に乗ってくださいといった感じです。そんな目的の会話の中で、人生のアドバイスをもらったりする。