地方議員こそ情報公開請求を――議会での質疑を活性化し、行政監視機能を高めるための活用法とは

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それではどうすればいいのか。すぐに思いつく方法は新たな〝抜け穴〟をふさぐ制度改定だろう。だが、それにはまず〝抜け穴〟を特定しなければいけない。

情報公開請求の継続によって新たな〝抜け穴〟を浮き彫りにして、姑息な運用を追及する発信が必要だ。

この役割を誰が担うのか。新たな担い手として私が期待しているのが議員、特に地方自治体の議員だ。わが街の政策や事業を調べる使命や動機があり、議会質問という発信の場を持っている。

情報公開請求することで「要注意議員」と目を付けられ、「仲間はずれ」にされることを恐れる声も聞くが、そんな心配は無用だ。

行政担当者からの表面的な〝御説明〟では得られない事実に触れることで政策や事業への見識が高まり、鋭い議会質問を通じてむしろ一目置かれることだろう。

情報公開請求は〝権利〟なので、情報の〝お恵み〟を受けるために役所にすり寄る必要もない。費用は基本的に1枚10円のコピー代(最近はPDFファイルを入れたCD-R代として50円しか取らない自治体もある)だけなので、それほど高額にはならないが、議員報酬とは別に支給される「政務調査費」の使い道として、これ以上に適切なものはない。つまり良いことずくめだ。 

日本の行政機構は国─都道府県─市町村のピラミッド構造が強固で、ヒトとカネ、そして通達による上意下達が徹底されている。地方自治体の政策・事業も国の制度や意向と無関係ではいられない。

そのため自らの自治体に情報公開請求するだけでは不十分で、都道府県や中央省庁にも請求しなければならない局面が必ずやってくる。こうして怪しい政策・事業をターゲットにした情報公開請求が地方自治体から国へも波及することで、情報公開制度が国、地方を問わずに活性化し、透明性も向上していく。拙著のタイトルではないが、「情報公開が社会を変える」のだ。

選挙、選挙、選挙、そればかりでいいのか?

「情報公開ワークショップ」を開催する中で困ったことが選挙による議員の関心の中断だ。当人の選挙は4年に一度でも、衆院選や参院選の国政選挙、居住する都道府県の知事選や議員選では、同じ政党に所属する地方議員たちもフル回転で応援に入る。頻繁な選挙によってわが街の政策・事業への調査は中断され、情報公開請求への関心も冷めていく。

2016年に日本テレビで放送された人気ドラマ『ゆとりですがなにか』(脚本・宮藤官九郎)で、夜の街でたくましく生きる自由な浪人生が、就職活動で悪戦苦闘している主人公の妹にこんな言葉をかけている。

情報公開が社会を変える ――調査報道記者の公文書道 (ちくま新書 1761)
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「就活するために大学入ったみてぇだな。 だって俺は大学がどうだったか?って聞いてんのに、就活しかしてねぇじゃん」

この名言、「就活」を「選挙」に、「大学」を「議会」に換えても成り立つ。選挙に受かるために議員になったのではなく、わが街の問題に取り組みたいから議員になったはずなのに、出発点を見失うようでは本末転倒だ。

地方議員の皆さん、選挙に向けるエネルギーを少しでいいからわが街の問題の調査に向けてはいかがだろうか。そして調査の第一歩として情報公開請求をしてはどうだろうか。情報公開請求の存在を知らないわけでも、やり方がわからないわけでもなく、実は請求した経験のある人も多い。

しばしば耳にする〝やらない理由〟は「やってみたけど思った通りの公文書が出てこなかった」「『のり弁』を見て心が挫けた」だ。確かに、一回の情報公開請求で期待していた通りの成果を出すのは難しい。しかし、だからといって「情報公開請求なんてやっても意味がない」とあきらめてしまうのは早計だ。

最後に、昨年東京都内の地方議員と実施した「情報公開ワークショップ」で、参加者の男性が最後に明かした感想を伝えたい。

「もし不開示になってもこちらには何のダメージもない。情報公開請求は負けのないけんか。やらない手はないと思った」

※筆者のX(旧Twitter):@tokudanewriter

日野 行介 ジャーナリスト・作家

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ひの こうすけ / Kousuke Hino

1975年生まれ。元毎日新聞記者。

社会部や特別報道部で福島第一原発事故の被災者政策や、原発再稼働をめぐる安全規制や避難計画の実相を暴く調査報道に従事。

『除染と国家 21世紀最悪の公共事業』(集英社新書)、『調査報道記者 国策の闇を暴く仕事』(明石書店)、『福島原発事故 県民健康管理調査の闇』『福島原発事故 被災者支援政策の欺瞞』(いずれも岩波新書) 、『原発棄民 フクシマ5年後の真実』(毎日新聞出版)等著書多数。新著に『双葉町 不屈の将 井戸川克隆』(平凡社)。

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