地方議員こそ情報公開請求を――議会での質疑を活性化し、行政監視機能を高めるための活用法とは
これは「情報公開ワークショップ」で扱った事例を基に、私が考えたフィクションだ。それではどうすればよかったのかについて考察したい。
「将来、生徒数が増える見込み」と「将来の生徒数を推計したデータはない」は矛盾している。どちらが事実か、役所に答えさせなければならない。いきなり議会質問で尋ねても、「支障があって答えられない」と逃げられたら次に打つ手がない。一方、「データはない」という担当者の説明を鵜呑みにして、「杜撰な事業だ」と拳を振り上げるのも悪手だ。担当者に「そんな説明はしていない」としらを切られたら一巻の終わりだ。
このような局面で有効なのが情報公開請求だ。
「生徒数の将来推計」を請求すれば、役所は「有無」を答えざるをえない。「有」でも理由をこじつけて「のり弁」(黒塗り)で隠すかもしれないが、その時に初めて「生徒数が増える見込みがうそだから黒塗りにしたのではないか」と議会質問で追及すればいい。
逆に「無」つまり「不存在」として開示しなかったら、「重要な推計を文書で残さないのは杜撰だ。そんな事業をしていいのか」と追及するのも一法だ。
このケースでは、県を通じて文科省に交付金や補助金を申請する可能性が高い。建て替えの必要性を示す根拠となる推計を添付しないことは考えにくい。情報公開制度では、当該の役所が作成した文書に限らず、他の役所から取得した文書も請求の対象になる。
「〇〇市教委から提出された××中学校の将来の生徒数の推計」、もしくは広めに「××中学校の建て替え工事の交付金申請に関する〇〇市教委との協議資料」を県や文科省に請求してみよう。本当は「ある」のに「ない」といって市が開示しなかった資料が、県や文部科学省から開示されれば、市の「隠蔽」がはっきりする。これは事業の必要性がないと自白したに等しい。証明責任を果たすよう役所に迫るうえで情報公開請求は有用なツールだ。
「公文書スキャンダル」後も透明化は進まず
2017年に、当時の安倍晋三内閣の下で、森友・加計の両学園問題、陸上自衛隊の日報問題など、いわゆる「公文書スキャンダル」が起きた。
政策プロセスに関わる公文書の情報公開請求を受けて、「保存期間1年未満の文書なので廃棄済み」「担当者の個人(私的)メモで公文書に当たらない」などと理由をこじつけて不開示にしたものだ。
内閣府は同年12月、「行政文書の管理に関するガイドライン」(公文書管理ガイドライン)を改定した。一連のスキャンダルは、不都合な公文書を合法的に隠蔽できる制度の欠陥だけではなく、一通の情報公開請求が持つ強い威力を示したとも言える。
それでは、一連のスキャンダル発覚をきっかけに情報公開請求は活発になり、政策プロセスの透明化は進んだのか。私は懐疑的だ。
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