宇宙は数え切れないほどたくさん存在している! MARVEL映画などフィクション作品で頻出の《マルチバース》、その理論を徹底解説

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そのため、多くの物理学者が真空のエネルギー密度を小さくするメカニズムを探しましたが、信頼性のあるものは見つかりませんでした。しかも、もしそのようなメカニズムがあったとしても、それがなぜ真空のエネルギー密度を宇宙誕生後約138億年の、現在の宇宙の物質のエネルギー密度と同程度まで小さくし、かつそれ以上は小さくしないのか、というのは完全に謎です。

仮説

しかし、実はダークエネルギーが実際に発見される1998年より前の1987年、アメリカのノーベル賞物理学者スティーヴン・ワインバーグは、「もし真空のエネルギーの異なる宇宙がたくさんあれば、真空のエネルギー密度が小さい問題は解決する。しかも、もしこれが真空のエネルギー密度が小さい理由であれば、私たちの宇宙の真空のエネルギー密度は、現在の物質のエネルギー密度とあまり変わらない値を取る」という論文を発表していたのです。

結果

実際にワインバーグが計算で示したのは、もし真空のエネルギー密度(正確にはその絶対値)が、現在の宇宙の物質のエネルギー密度より十分大きかったならば、そのような宇宙には生命はおろか、星、銀河なども全く存在し得ないという事実です。

真空のエネルギー密度が小さくなっている理由

そこからワインバーグは、もし異なる真空のエネルギー密度を持つような宇宙が無数にあれば、真空のエネルギー密度の自然な値が巨大だったとしても、その無数の宇宙のうちのいくつかでは、真空のエネルギー密度が「偶然」120桁以上小さくなることはあるだろう。そして、宇宙を観測できる生命体は、そのような宇宙にしか生まれないのだから、私たちのような生命体が宇宙を観測したときには、必ず真空のエネルギー密度が不自然に小さいという事実を発見する、という議論を展開したのです。

しかも、ワインバーグは、もし私たちの宇宙の真空のエネルギー密度がこのような理由で小さくなっているのならば、それがたまたまゼロであるというのは考えづらいので、真空のエネルギー密度はゼロではなく、現在の物質のエネルギー密度とあまり変わらない値を取るだろうと予言しました。そして、その予言は1998年に、実際に確かめられることになったのです。

このように、宇宙が一つではなくたくさんある理論を、英単語で「一つの」を意味するuniを、「複数の」を意味するmultiに変えて、マルチバース(multiverse)理論と呼んでいます。

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