地球帰還後に燃え尽きた「宇宙飛行士」の告白 後悔なく生きるのは宇宙に行くより難しい

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国際宇宙ステーション第60次/第61次長期滞在バックアップクルー。左から野口聡一氏、セルゲイ・リジコフ氏、トーマス・マーシュバーン氏。2019年3月撮影(写真:JAXA/GCTC)
3度の宇宙飛行を経験し、57歳でJAXAを退職した野口聡一宇宙飛行士。その輝かしい活躍の陰に実は、自分を見失うほどのつらく苦しい10年の日々があったといいます。
「人と比べて自分を責める」「落ち込み、やる気がでず昼夜逆転」「家族に不機嫌な顔を見せ、自室に引きこもり」。そのつらい時間の中から得た、本当に自分らしく生きる方法とは――。
明かされてこなかった野口聡一宇宙飛行士の苦悩を描いた『どう生きるか つらかったときの話をしよう 自分らしく生きていくために必要な22のこと』より一部引用・再編集して、そのヒントを探ります。

「宇宙に行って人生観は変わりましたか? 」

僕は1996年に宇宙開発事業団(NASDA、現・宇宙航空研究開発機構〈JAXA〉)の募集に応募して、31歳で宇宙飛行士候補に選ばれ、2022年6月1日に57歳でJAXAを退職。

その間、宇宙飛行士として合計3回、宇宙へ行きました。

初めて宇宙に行ったのは2005年、40歳のときですが、それから今まで、何度となく次の質問をされました。

「宇宙に行って人生観は変わりましたか?」

たくさんの人がこの質問をする理由は、もちろん僕にもよくわかります。

アメリカ人初の宇宙飛行士であるアラン・シェパードは、月面着陸後に「月に行く前の俺は腐りきった畜生だったが、(月に立った)今では普通の野郎になった」と言っていますし、かつて僕が教えをこうたこともある作家の故・立花隆先生は、『宇宙からの帰還』(中公公論社)の中でこう記しています。

「宇宙体験という、人類史上最も特異な体験を持った宇宙飛行士たちは、その体験によって、内的にどんな変化をこうむったのだろうか。(中略)それがどれだけ体験者自身に意識されたかはわからないが、体験者の意識構造に深い内的衝撃を与えずにはおかなかったはずである」

この名著によって宇宙への憧れと夢を育まれた僕も、「宇宙へ行くというドラスティックな体験をして、人生観が変わらないわけがない」と、ずっと思っていました。

ところが、実際に宇宙に行き、帰ってくると、それまで想像もしていなかったことが僕を待ち受けていました。

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