地球帰還後に燃え尽きた「宇宙飛行士」の告白 後悔なく生きるのは宇宙に行くより難しい

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自分一人でアイデンティティを築き、人生の方向性や目標、ミッションを決めるという経験をせず、他人の価値観や評価に身をゆだねてしまうと、たとえ競争に勝って目標を達成しても、組織の中で成果を出して認められても、目標を達成したり組織を離れたりすると同時に自分のアイデンティティや生きる方向性を見失ってしまいます。

本当に後悔のない人生を送るためには、どうすればいいのか。

苦しかった10年間を経て、ようやくその答えがわかった僕は、定年を迎える前にJAXAという組織を離れ、自分の足で歩き出す決意をしました。

宇宙は正と負、2つのインパクトを与えてくれます。

正のインパクトは、まばゆいばかりの地球の姿と一対一で対峙することで宇宙的な視野を獲得できること、負のインパクトは、その宇宙体験がまばゆければまばゆいほど、その後の「日常の帰還」時の落差が大きく「燃え尽き症候群」を招くことです。

この2つのインパクトは、実は時間をかけて自分の中で熟成されていくのですが、最終的に負のインパクトを乗り越えることができたことで、僕はようやく自分のアイデンティティにたどり着けたのだと、今では思っています。

人生は自ら思うように動かせる

宇宙飛行士に限らず、誰にとっても、後悔なく生きるのは非常に難しいことです。僕自身、いまだに、真に自分らしい生き方を求めて悪戦苦闘している最中です。

しかし、宇宙で学んだこと、苦しみの10年間に学んだことを踏まえ、「人間にとって、アイデンティティとは何か」を正面からとらえ、同じようにアイデンティティの問題を抱える多くの人たちと共有したいという思いから、今回、筆をとることにしました。

どう生きるか つらかったときの話をしよう 自分らしく生きていくために必要な22のこと
『どう生きるか つらかったときの話をしよう 自分らしく生きていくために必要な22のこと』(アスコム)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

人にはいつか必ず死が訪れるし、自分の死をコントロールすることはできない。

でも、天寿を全うするまで、自分の命、自分の人生を主体的に動かすことはできる。

朝、起きたときに命があれば、その日一日の命、その日一日どう生きるかを自ら考え、実行することはできる。

それは、後述するように、共に訓練を受けた仲間を事故で失ったり、危険に満ちた宇宙空間で、死と隣り合わせで作業を行ったりした僕の偽らざる実感です。

自分自身の心の中、あるいは人生に向き合っていくのは、もしかしたら宇宙に行くより困難な旅かもしれません。

でもその旅を通じて、わたしたちは自分自身で自分のアイデンティティを築き、どう生きるかの方向性と目標、果たすべきミッションを決めることができるのです。

この本が、一人でも多くの人にとって、自分らしく後悔のない人生を送るきっかけになることを願っています。

野口 聡一 宇宙飛行士

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のぐち そういち / Soichi Noguchi

博士(学術)。1996年5月、NASDA(現JAXA)の宇宙飛行士候補者に選抜、同年6月NASDA入社。2005年スペースシャトル「ディスカバリー号」で、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在、3度の船外活動をリーダーとして行う。2009年、ソユーズ宇宙船に船長補佐として搭乗。2020年、日本人で初めて、民間スペースX社の宇宙船に搭乗、約5か月半、ISSに滞在した。4度目の船外活動(EVA)や、「きぼう」日本実験棟における様々なミッションを実施し、2021年5月、地球へ帰還。主な著書に『どう生きるか つらかったときの話をしよう 自分らしく生きていくために必要な22のこと』アスコム刊がある。

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