日韓鉄鋼大手が火花、揺らぐ「鉄の絆」の行方 新日鉄住金vsポスコ、技術盗用訴訟の顛末
新日鉄がトヨタ自動車や家電メーカーの要求に応えることで技術力を高めたように、ポスコの躍進には現代自動車やサムスン電子などの存在があった。
ただ、その裏では、創業以来の深い仲だった新日鉄から、20年余りにわたり技術を盗用していたのである。
事件発覚の経緯は意外なものだった。2007年、ポスコの元社員が方向性電磁鋼板の技術を中国の宝山鋼鉄に550万ドルで売り渡したとして、韓国内で身柄を拘束された。この元社員が「技術情報は新日鉄から不正に入手したものだった」と無罪を主張したことから事件が明るみに出た。
電磁鋼板はモーターの鉄芯などに使われる。電気を磁力に変える際の変換効率が普通鋼材より高いのが特長。特に方向性電磁鋼板は一定方向に優れた変換効率を持ち、変圧器などに使用されている。
新日鉄住金によれば、技術が流出した方向性電磁鋼板は、20年以上かけて開発したもの。1トン当たりの価格は15万~50万円程度と、普通鋼材(5万~10万円)を上回る。開発に携わった技術者が退職後に情報を売り渡していた。
転換点だった経営統合
ポスコが好調を謳歌した2000年代は、中国の“爆食”を背景に、世界で鋼材需要が急拡大した時代だ。新日鉄は当時、自動車向けなどに鋼材の加工能力を増強したが、相対的に鋼材そのものの生産能力が不足していた。
また、買収に次ぐ買収で事業規模を拡大してきたインド発祥のミタルスチールが欧州最大手をのみ込み、2006年に超巨大メーカーのアルセロール・ミタルが誕生。業界では「次の標的は技術力のある新日鉄」とささやかれていた。
そこで新日鉄は、2000年にポスコと結んだ戦略提携の内容を、2006年に拡充。買収防衛のために株式の持ち合いを増やしたほか、半製品(加工前の鋼材)を相互に供給し合うことなどを決めた。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら