「女性管理職比率」「人的資本経営」…社会からの要請に企業はどう応えるか 《その数値は誰のため?》見失われる本質とその代償
たとえば、情報開示を担当するIR部門が人事部門に、ある数値の測定を依頼する。人事部門としては、これまでにない作業が発生し、「何のために開示するんだ。その数値を開示して意味があるのか」と不満が募る。
その結果、対応はどうしても後ろ向きのものになる。このような状況で開示される人的資本情報にどれだけの価値があるのだろうか。企業の価値向上にも繋がらなければ、それを見る投資家が投資判断を下す価値のある情報にもなっていないのではないだろうか。
投資家が人的資本情報の開示を求めるようになったのは、人的資本開示を進めることで、人的資本の価値、ひいては企業の価値を高める経営をしてもらいたいという真の狙いがあったからだ。だとするならば、経営戦略と人事戦略の連動こそが重要になる。
こうした企業価値の向上、経営戦略と人事戦略の連動などが意識されることなく、オリジナルの指標や施策を考えて発表したとしても、投資家からは「だから、何?」と思われるだけだ。
では、本来の目的である人的資本の価値向上、企業の価値向上という目的を踏まえた指標や施策は、どのように考えればよいのだろうか。
人的資本の指標はたくさんあるが、それらは横並びではない。筆者が最も重要だと考える指標が「エンゲージメント」である。エンゲージメントとは、企業と社員の相互理解、相思相愛度合いのことだ。「One for All, All for One」の実現のためにも、エンゲージメントの向上が欠かせない。
エンゲージメントが最も重要な指標だと考えるのは、業績や労働生産性と正の相関関係にあるからだ。エンゲージメントが高い企業は、業績や労働生産性も高い。たとえば、経営幹部を育成するために研修などを行ったとしても、エンゲージメントが低いと、せっかく育成した幹部社員が離職する可能性がある。
MBAを取得させるためにアメリカの大学に留学させた社員が、帰国後しばらくしたら他社に転職してしまったという話は大手の銀行や商社でよく聞くが、その原因はエンゲージメントの低さにある。
要するに、エンゲージメントが低いと、いくら人的資本の価値を高めるための投資を行っても、リターンが得られないということだ。逆に、エンゲージメントが高ければ、離職する可能性も低いので、投資対効果が得られる可能性は高くなる。
柔軟な「関係解消」がエンゲージメントを高める
人的資本経営の本質を見極めるために、あえて「関係解消」についても触れておきたい。
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