各人が2日に1回など、松橋さん宅への訪問のローテーションを決めているらしく、結果、松橋さんは毎日お客さんを迎えることになるのだ。松橋さんは客人をもてなすために茶菓子や飲み物を常備していて、遅い日は17時頃まで、お茶っこを飲みながらおしゃべりを楽しむのである。
お客さんが帰ると松橋さんはすぐに風呂焚きをするのだが、風呂に入るタイミングでお客さんが訪ねてきたら、脱いだ服を着なおして迎え入れる。
「そこからまたいろんな話っこが始まる。俺がいると思って来てくれるのだから、俺は幸せだ」
夕方組の客人にはマタギになるために移住してきた若い衆もいる。息子よりもうんと若く、松橋さんを「親方」と呼ぶ。

男同士の“話っこ”はさまざま。まず、世の中のニュース。松橋さんは片耳が遠くなり、テレビのニュースも聞き取りにくくなった。だから、遊びに来てくれた仲間から新聞やテレビのニュースを教えてもらうのだという。
「1人でテレビを観るときは時代劇ばっかり(笑)。ニュースは友だちから毎日、教えてもらうほうが頭に入る。だから俺はこの年になっても世の中のことはわかっていると思う」と胸を張る。
老人クラブの総会長とは老人クラブのことを、集落の役に就いている人たちとは神事や年間行事の相談や段取り、マタギの若い衆には請われるままにマタギの座学、そしてお気に入りの武勇伝を身振り手振りで披露する。
19時半には就寝
最後の客人を見送って風呂に入り、17時から夕食を作り、17時半に夕食。徒歩3分のところに住む長女の栄子さん(61歳)からは「とにかく野菜を食べろ」と言われている。
好物のたまな(キャベツ)は肉と一緒に炒めて、ほうれん草はお浸しに。地元産の白米を炊いて、味噌汁も毎食作る。山から授かった獲物や渓流魚をさばき、山菜、キノコも下処理から調理。そして後片付けまで当たり前にやってきた松橋さんである。
マタギ衆のおすそ分けの鹿肉や熊肉の調理も手慣れたものだ。
とにかく家事全般を面倒がらずにこなす、松橋さんの家事能力の高さたるや。人生100年時代を自由に幸せに生きるために大切なのは、こういうシンプルな「暮らしの力」のように思う。

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