栄子さんは片づけの号令をかける一方で、「このズボン、あったかそうだから買ったよ。冬にはいて」と、ちょいちょい新しい服を買っては届けてくれるという。これは父娘のDNAということか。断捨離戦は一進一退で継続中である。

自分ができる仕事はなんでもやる
かように楽しく老後を過ごす松橋さんには、引退した本業以外に若い頃から続けている「俺の仕事」がある。

たとえば集落の神社のしめ縄作りや御幣(ごへい)作り。1年に1回松橋さんの自宅地下に皆が集まって、一緒に作る。
それから集落の人たちの手助け。何か目についたら、すぐにやる。
小屋や自宅を解体して出た木材が野ざらしになっていたら、釘を抜いて薪をこしらえてしまう。その薪を分けてもらったら、それを束にして、薪ストーブの家に届ける。
長い冬の期間は皆が使う道路はもちろん、栄子さん宅はじめ親類の家々の雪かきもする。

こうしたすべてのことを、松橋さんは「いろんた(いろんな)手伝いっこ」という。
自分ができる仕事はなんでもやる。それが回りまわって、自分に返ってくると思う。だから、マタギと仕事を引退した今でも、毎日訪ねてくる仲間がいて、楽しく健康に暮らしている。
では、松橋さんが自分のために大切していることはどんなことだろうか。
「この家で、死んだかかあとご先祖さまの仏さまを守ること。仏さまを守るということは、自分を守ってもらうということだから」
二間続きの広い座敷に置かれた仏壇に、毎朝欠かさず炊き立てのご飯と水っこをあげると、気持ちがすきっとするという。そして手を合わせる。
「まだ俺ば迎えにくるなよ。もう少し見守ってくれよ」
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