「覚悟はできとるんじゃろうな」ーー野球部顧問からの叱責を苦に16歳が自死 それから13年たった今も苦しむ父親が訴えること

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A君は「もう耐えられない」と一度退部。退部を申し出た際も「夏の大会前の3年生の気持ちがわからないのか。チームの士気が下がる」と叱られている。しかし、同級生からマネージャーとしての復部を懇願される。顧問から「一度辞めたんじゃから、覚悟はできとるんじゃろうな」と威嚇するような態度をとられたものの復帰した。

復帰初日からさまざま理不尽な理由で叱られ続けた。復帰して3日目。猛暑の練習で「声を出さなかったらマネージャーの存在価値はねえ」と怒鳴られた。部員が体調不良を訴えたため、顧問は氷を持ってこさせようとA君の名前を大声で叫んだが、離れた場所で作業をしていたため気づかなかった。「あのとき、何をしよったんだ」「聞きよるじゃろうが!」と大声で問い詰められた。

帰り際「体調不良者が出て大変じゃけど、これからもマネージャー頼むわ」と声をかけた同級生に対し、「もう俺はマネージャーじゃない。存在してるだけだ」と返答。その数時間後、命を絶った。

A君が通っていた岡山県立操山高校(写真:筆者撮影)

自身の存在価値を否定された息子の絶望を、父親は強く感じている。

「わが子ながら責任感が強い、いい子でした。あの子が死ぬんだから相当おかしなことがあったに違いない。親として守れなかった子どもの命を無駄にしたくないから、再発防止をしたい。そう思って県教委と向き合うことを決意したんです。責任論とか、損害賠償請求してお金をもらっても何も残りませんから」

それなのに「Aのような目に遭う子どもは出ないだろうという手応えがまったく得られないまま」(父親)時間だけが過ぎていく。

この13年の間に、最も心強い伴走者だった妻が病で亡くなった。この3月で一周忌を迎えた。

「相談できる相手がいなくなったことは私にとって非常に大きくて……。悩んだとき、こういうことがあるんだけどどっちがいいと思う?とか気軽に聞けたんですけど、もうそれができない」

県教委との面談の際も「横にいてうなずいてくれるだけでよかった。でも、もういない。1人でやらんといけんと思うと本当にきつい」。

再発予防対策について話し合う面談には夫妻と弁護士、当時のPTA会長が出席していたが、妻が亡くなってからは代わりに、親族や友人が出ると言ってくれた。県教委の許可がおり昨年9月の面談は8人来てくれたが「発言はさせられない」と規制され、友人らは黙って聞くしかなかったという。

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