秘密を背負った子
姫宮は、この日の暮れ頃から苦しみはじめた。産気づいたことに気づいた女房たちがみな大騒ぎして光君に知らせたので、光君はあわてて姫宮の元にやってきた。光君は内心では、なんと残念なことだ、なんのわだかまりもなくこのお産のお世話ができるのだったら、めったにないことだとどんなにかうれしいだろうに……、と思うが、人にはそんな思いをさとられないように、修験者たちを呼び、祈禱はいつとなく休まずにさせる。僧侶たちの中でも験力のすぐれた者がみな参上し、大騒ぎで加持祈禱をしている。
姫宮は一晩中苦しんで、朝日の差し上る頃に産んだ。男君と聞いた光君は、「こうした秘密を背負った子が、あいにくなことに、父親のはっきりわかるような顔立ちで生まれたら困ったことになる。女ならば、何かとごまかせるし、多くの人の目に晒されることもないから心配ないのに」と思う一方で、また、「こうした気掛かりな疑念がつきまとうのでは、世話の焼けない男の子であるのも好都合かもしれない。それにしても不思議なことだ、自分が常々おそろしく思っていた罪業の報いなのだろう。この現世で、思いもよらないこんな報いを受けたのだから、来世の罪も少しは軽くなるだろうか」とも思う。
周囲の人々はこうした事情は知らないので、このように格別高貴な姫宮のお腹から、しかも晩年に生まれた若君への光君の寵愛(ちょうあい)はたいへんなものだろうと、心をこめて世話をする。
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