「バクマン。」に見る、ジャンプ編集部のリアル 副編集長、相田聡一氏に聞く

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――システムに関してはどうですか? たとえば少年ジャンプではアンケートを重視しているというのはよく言われるところですが、そこの描き方については?

(撮影:梅谷秀司)

そこは原作でもデフォルメされている部分ですからね。そこに関してはリアルというよりも、原作のいい意味で振り切った部分をうまく切り取ってくれたなと思います。

たとえば映画では、編集部の壁に連載マンガの順位が貼り出されていましたが、実際にはそんなことは絶対にありえません。外部からもお客様がいらっしゃるわけですから。でも映画の演出としてそういう風に見せたい、という気持ちはわかるので、相談された時には、それはいいのではないかと答えました。

そういったリアルとリアリティーの違いという面はありますけどね。

統計的にも信頼がおけるアンケート結果を大切にしている

――読者のアンケートでランキングが決まり、いかに上位につけるのか。そこを舞台としたライバルたちとの切磋琢磨(せっさたくま)も本作の大きなテーマのひとつです。少年ジャンプにおいて、アンケートの結果でランキングが決まるということはどういう意味を持つのでしょうか?

もちろん人それぞれですが、それでもアンケートの結果を大切にするというスタンスはすべての編集者が持っているもの。少年ジャンプには、毎週、何万通以上ものハガキが来るので、統計学的にも信頼が置けるんですよ。だからアンケートを頼りにしているのは確かですが、アンケート至上主義というのとはちょっと違うかな、と思います。

――たとえばご自身でも今週はダメだったな、という実感があった時には、そこは正直にアンケート結果に反映されるものなのでしょうか?

(C)2015映画「バクマン。」製作委員会

ものすごく出ますね。もしそれが読者の感覚とずれが生じたとするならば、アンケートはもう取らなくなると思います。でもおかげさまで、今のところはそういったずれは少ないので、アンケートを変わらずに採用しているということです。

これは僕の考え方なんですが、アンケート結果というものは、他の誰に勝つことよりも、自分の担当するマンガが前回よりも上がることの方が大事なんです。ずっと3位を取っていたマンガが、いきなり5位、6位になったら、そこには理由があるんですよ。もちろん他のマンガが面白かったからとか、相対的な理由もあるのですが。それでも普段5位のマンガが12位になったとしたら。明らかにこちらに理由があるわけですよね。そしたら、その原因を考えるきっかけにはなりますね。何に勝った、負けたというよりも、普段のアベレージをいかに上げるか、ということに重点を置いていました。

たとえばギャグマンガをやっていて、ほかのギャグマンガには負けたくないという編集者もいるかもしれない。もしくはターゲットを決めて、こいつに勝ちたいと思ってやる編集者もいるかもしれないし、そこは人それぞれですね。

――アンケートの読み方が必要になるということですね。

僕らはマンガを面白くするために票を見ているのであって、僕らの勝負は、本当に面白いマンガを提供できたかどうかにかかっています。たとえば主要キャラクターが死んだら確かに票は上がります。ショッキングなので、その回は1位をとれるかもしれない。それが今後の展開にとって意味がある展開ならそれでもいいのですが、ただ票を取りたいがために主要キャラクターが死んでしまうという展開にすることに意味があるのか。そこは気をつけないといけない。これは先輩から教えられてきたことです。毎週、票を取りに行くことは大事なのですが、意味のある票の取り方をしないといけないということなんです。

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