「全品270円」でかつては大人気、居酒屋「金の蔵」が今では“残すところ1店舗”の理由とは?現地&社長取材から徹底分析
「金の蔵のように200~400席ある大箱は、団体客を想定しているため、メニューの守備範囲を広くしておく必要がある。30人が来たら、30人が平均的に満足できるよう、メニューのラインナップがいわゆる“総合型”になります。
この大箱かつ総合的にメニューを揃える形態は、2010年代半ば頃から、時代にそぐわなくなりました。
宴会需要が減少して、2~4人で外食する機会が増えると、食べたいものを周囲に合わせる必要も減る。そうなれば、平均的なクオリティで何でも揃える無難さよりも、焼肉や海鮮などコンセプトに特化した店舗が選ばれやすくなる。『これを食べたい!』と事前にリサーチする消費行動も、金の蔵のメニュー体系にはマッチしづらく、空中階(2階以上)の大箱を埋めるのが難しくなりました」
こうして大箱の需要が下降しつつある2018年、長澤氏に、社長のバトンが渡される。
2年で大量閉店
長澤氏は、金の蔵の赤字店舗を減らすことを命題に、新宿エリアを4区画に区分して、業態を満遍なく点在させるなど調整を行う。また、都心部を避けた山手線の外側に、15~30坪程度の大衆酒場『アカマル屋』や『焼肉万里』を展開し、バランス感のあるポートフォリオを築いた。その結果、金の蔵の店舗数は、減少の一途をたどる。
さらに2020年に襲来したコロナ禍が、追い打ちとなった。2020年4月の緊急事態宣言を皮切りに、度重なる営業時間の短縮要請を強いられ、一時期は賃料だけで月5億円近いキャッシュが飛んだ。「社を存続させるためには撤退しかなかった」と長澤氏。2019年6月期の59店舗から、2020年6月期は30店舗、2021年6月期は9店舗と急激に縮小し、現在の1店舗と衰退を辿る。
「これまでも続いていた大箱空中店が難しい状況に、コロナが直撃して大量閉店を決意しました。逆に言えば、立地条件や顧客の消費行動を加味して、採算が取れると踏んだのが、池袋サンシャイン通り店1店舗だけだったということです」
現に、池袋サンシャイン通り店の2024年の売り上げは、コロナ以前の2019年比で、9割まで回復。今となっては、意外にも3000~4000円の食べ飲み放題プランも人気で、ファミリー層など新しい鉱脈も見えているという。

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