ヨーロッパ各国政府は、当面のエネルギー安全保障を脅かす戦争に際して、ジミー・カーターが繰り広げたエネルギーの犠牲の物語を呼び覚ました。2022年春、イタリアのマリオ・ドラギ首相は、「平和を望むのか、それともエアコンをつけたいのか」と問いかけた。
しかし、カーターが犯した政治的失策の亡霊は、アメリカ国内を含めていまも彷徨している。西側の政治家たちは、エネルギーをめぐる民主主義的反乱を明らかに恐れており、国家であれ、ヨーロッパであれ、西側民主主義陣営であれ、政治的共同体のためと称して、市民に多大な経済的痛みに耐えるよう求めなかった。
バイデンは、戦略的石油備蓄の放出を正当化するにあたって、「プーチンによるアメリカ国内の価格高騰を最小限に抑えるため、できるかぎりのことをする」と約束した。ヨーロッパ各国政府は、財政的な懸念をよそに、家庭用燃料費に補助金を出したが、イギリスやフランスなど一部の国は、いまだにストライキの波に直面している。
しかし、ヨーロッパの企業がすでにパキスタンと契約しているLNGをスポット購入することについては、どの国も問題視していないようであった。
イタリアでは2022年7月、前ECB総裁でもあるドラギがエネルギー価格の引き下げよりもウクライナを優先させたとして五つ星が支持を撤回し、ドラギ政権は崩壊した。事実関係を述べれば、その後の総選挙で、テクノクラート政治と大連立政治に妥協しなかった「イタリアの同胞」がふたたび最多議席を獲得すると、その党首ジョルジャ・メローニが首相になる道が開かれた。
タブー視されたエネルギー消費の削減
対照的に、CO2を削減するためのエネルギー消費の削減はタブー視されつづけた。
その代わりに、エネルギー転換を進めるための新たな論拠を示すにあたって、経済構造の転換によって1970年代から失われてきた国内製造業の生産活動にたいする階級を超えた関心をふたたび呼び起こすことができるという考えを、戦争という非常事態がさらに後押しした。
インフレ抑制法を始めとするアメリカの気候変動政策は、アメリカの脱工業化の負け組に訴えかけることによってトランプやトランプ的な候補者がふたたび選挙で勝利を収めるといった2016年に起こったようなショックにたいする政治的防波堤となった。
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