｢平和を望むのか､それともエアコンをつけたいのか｣　エネルギーが国際秩序の崩壊をもたらす｢主要通貨｣となる

こうした連邦政府の介入は、かつてのニューディール政策とは対照的に、ネイションフッドを人種包摂的な概念として明確に示している。

実際、バイデン政権にとって、これはニューディールに由来する経済的ネイションフッドの理念を回復する試みであるのと同時に、過去の制限的なアメリカのネイションフッドにたいする償いの行為でもある。製造業の生産を国内に戻すだけで事がうまく運ぶかは疑問の余地がある。

しかしながら、2022年に民主党政権下のアメリカが、2019年にヨーロッパ諸国政府が「2050年ネットゼロ」の公約を掲げて陣取ろうとしたのと同じ政治的空間に足を踏み入れたという事実は、ヨーロッパの野心を制約することを意味する。

アメリカのこの動きは、高騰する化石燃料のエネルギーコストとアメリカの金融力によってヨーロッパ諸国とEUが不利な立場に置かれている貴族主義の過剰という問題に対処するために、西側諸国がエネルギー転換の活用をめぐって地政学的に競い合う構図をつくり上げている。

ブレグジット後の〔イギリス国内の〕「平準化（levelling-up）アジェンダ」を低炭素分野への投資に賭けたボリス・ジョンソン政権の失敗は、すでにこの問題を物語っている。

インフレ抑制法によって、ブレグジット後のイギリスがアメリカと自由貿易協定（FTA）を締結することは、アメリカ中心の低炭素サプライチェーンにイギリス企業のプレゼンスを確保するか、アメリカの貿易条件を受け入れて国内負担を引き受けるかの選択を将来的に迫られる可能性が大いに高まるということである。

困難なエネルギーの国内自給体制

アメリカでさえ、エネルギーの国内自給に向けた生産体制の再構築は、民主主義的に大きな変革を起こせるほどすぐには実現できない。

2016年の反乱候補トランプへの対応として、このプロジェクトは国境と市民権の問題を手つかずのままにしている。

バイデン政権は、低炭素国家アメリカの迅速な建設に賭けることで、利用可能な補助金を調達する企業のために、現在のエネルギー需要を実現不可能な未来志向のプロジェクトに従属させているとの非難を受ける可能性もある。