「平和を望むのか、それともエアコンをつけたいのか」 エネルギーが国際秩序の崩壊をもたらす「主要通貨」となる

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 5
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

2022年第2四半期から第3四半期にかけてのドル高に伴うエネルギー価格の高騰がもたらした政治的不安は、金融面での苦境をさらに拡大させただけであった。

ヨーロッパのほぼすべての国の政府は、家計と企業をこのショックから保護するために追加借り入れに踏み切った。

ドイツやイギリスのように、市場で最も借り入れの余地があると判断した国は、大規模な財政支援を行った。

イギリス史上最も短命であったリズ・トラス首相の場合、新たな財政・金融ミックスに減税を加えたことが悲惨な結果を招き、イギリス債券市場の流動性が崩壊し、ポンド危機を招いた挙げ句、2022年10月に退陣を余儀なくされた。

後任のリシ・スナク首相は、イングランド銀行への利上げ圧力を緩和し、ポンドを下支えしたいと考え、トラスの打ち出した減税のみならず、エネルギー支援策の大部分も撤廃した。

米中の軍事衝突リスクが高まる

2022年の中国の低成長が、構造的にスタグフレーションを助長するマクロ経済環境下での不測の事態を防ぐものであったとすれば、ロシアの戦争は、世界経済を不安定化させている2005年以降の米中両国間の断層をさらに悪化させるものであった。

2022年2月24日以前は、米中貿易・技術摩擦が加速していても、中国が深刻なドル不足に陥らないようFRBが後ろ盾となることで相殺されていた。

その後、アメリカ政府によるロシアへの金融制裁は、中国指導部にドルを基盤とする国際信用システムへの中国の統合について見直しを促すものでしかなかった。

しかしながら、北京のドル・エクスポージャー〔訳注 外貨準備として保有する米ドルの為替リスク〕の大きさを考えると、そこから抜け出すことは至難の業であった。中国は2022年2月から年末までのあいだに米国債の保有額を5分の1近くまで減らす一方、それに比例するかたちでファニーメイとフレディマックの資産を増やし、2008年にこの住宅ローン会社2社の債務の信用が完全に失われる前にとったのと同じ行動を繰り返した。

北京がドル問題に取り組むなか、米中の軍事衝突リスクが高まり、中国が国外に保有する外貨準備が没収されるおそれが出てきた。ウクライナ侵攻の3週間前に習近平と会談したプーチンは、中国を領土修正主義の道連れにしようとした。プーチンは、ウクライナがロシアの領土であるように、台湾は中国の領土であると示唆した。

これに呼応してかどうかはさておき、バイデンはアメリカが台湾防衛にこれまで以上に明確に関与する姿勢を示した。同時にバイデンは、2022年10月に中国への半導体販売を禁止し、テクノロジー分野での中国の野心を抑え込むアメリカの動きを活発化させた。

その結果、先端マイクロチップの90%以上が台湾で生産されている状況下にあって、米中間の緊張が高まった。ウクライナ・ロシア戦争中、アメリカは石油備蓄を放出して供給を増やすことができたが、北西太平洋の島をめぐる戦争で失われるものを実質的に埋め合わせることはできないであろう。

次ページヨーロッパ各国政府を苛立たせた中国への対応
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事