「平和を望むのか、それともエアコンをつけたいのか」 エネルギーが国際秩序の崩壊をもたらす「主要通貨」となる

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石油市場では、2005年に始まった在来型エネルギー供給の停滞と14年以降の投資の落ち込みによって、構造的問題が長期にわたって続いていた。2021年には、シェールオイルの補塡能力が著しく低下し、その年の世界の消費量は生産量を日量150万バレル上回った。

年末になっても、アメリカの原油生産量は2年前と比べて日量100万バレル以上減少していた。

バイデンは大統領就任後最初の数カ月で、イランの原油輸出にたいする制裁を緩和する新たな核取引に向けてイランを動かそうとしたが失敗し、OPECプラスに生産量を増やすよう説得を試みた。

しかし、そこでも失敗したバイデン政権は、2021年の秋、中国とのあいだで戦略石油備蓄の放出を調整する方向に動いた。ウクライナ・ロシア戦争によって原油価格がふたたび上昇したため、OPECプラスに生産調整を迫るようバイデンへの圧力は一段と強まった。

バイデンは2021年にはサウジアラビアに批判的な言葉を吐きつつもOPECプラスに寄り添う態度を示していたが、2022年7月には直接リヤドに赴き、ムハンマド・ビン・サルマンと会談した。

しかし、かつては主要なアラブの同盟国であった国にたいするアメリカの影響力は、シェール時代になっても依然として微々たるものであった。

パンデミックの非常事態に際してサウジアラビアとロシアの対応はそれぞれ異なっていたことから、トランプは2020年4月に減産を強行することができたが、エネルギー戦争はG7とEUにロシア産石油製品への価格制限の採用を促し、結果的にサウジアラビアとロシアは基本的な利害関係を共有することとなった。

中国の経済成長が鈍化することに期待

バイデンのリヤド訪問から3カ月後、OPECプラスは生産目標を日量200万バレル削減すると発表し、ワシントンを激怒させた。

しかし一部のOPECプラス加盟国は既存の生産割当量を満たしていなかったことから、実質的な減産幅は発表よりもかなり少なかった。

この現実は、在来型原油生産量の継続的な停滞を物語るものであった。2021年に政治的に許容できないとみなされた価格であっても、2022年に世界経済を回すためには、バイデンにアメリカの戦略石油備蓄からの大規模な放出を命じてもらう必要があった。

しかし、その負担を軽減したのは、北京のゼロコロナ政策による中国の原油需要の減少であった。シェール生産が加速した2010年代には、世界の経済成長は中国の経済成長に寄りかかっていたが、2022年に本格的な石油危機が起こるのを回避するには、中国の経済成長が鈍化してくれることを期待するよりほかなかった。

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