しかし、2000年代半ばに中国からの安価な輸出がなければ、2021年秋から22年半ばにかけての「第三次オイルショック」とでもいうべきもののインフレ効果を打ち消す材料はなかった。
インフレなき持続的経済成長の欠如は、2005年にマーヴィン・キングが演説したときよりも顕著であったにもかかわらず、各国中央銀行の行動は2004~06年のときよりも遅く、ECBの場合は2011年のときよりも随分と遅かった。
インフレ率がすでに8%近くに達していた2022年3月になってようやくFRBは金融引き締めを行ったが、ECBはそれよりもさらに4カ月も遅れた。
強まる中央銀行幹部への利上げ圧力
2008年以降、高度にレバレッジ〔訳注 少額の資金で多額の取引を可能にするテコの作用〕が効いた国際金融システムでは、金融引き締めはいつでも金融不安の脅威となり、2010年代から20年代初頭にかけて、市場に大きなストレスがかかるエピソードが頻発するようになった。
しかしながら、パンデミックにたいする経済的対応により、特にアメリカではインフレ傾向がふたたび強まり、やがて中央銀行幹部への利上げ圧力が確実に強まった。
そのため、2021年には金融政策の余地はほとんどなくなっていた。パンデミックがまだ終息していない段階で早期利上げに踏み切れば、消費者心理に大きな打撃を与えていたであろう。
加えて、保有する米国債の額面価額が金利上昇により下落すれば、2023年にシリコンバレー銀行を破綻に追い込んだような危機に銀行をさらすことになるかもしれない〔訳注 2023年3月10日、シリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻した。SVBはテック系スタートアップを中心に融資を行っていたアメリカの銀行である。
次いで12日、やはりアメリカの銀行で、暗号資産(仮想通貨)関連企業との取引で知られていたシグネチャーバンクも経営破綻に追い込まれた。この事態を受け、アメリカ政府はすぐに、両行の預金の全額保護を表明した。両行の経営破綻の余波は、大西洋をまたいでスイス第2位の銀行クレディスイスに波及した。15日には同行の株価が一時30%も下落し、19日にはスイス第1位のUBSがクレディスイスを30億スイスフランで買収することを発表した〕。
しかし、アメリカ国外では、ドル高が着実に進行しているときに何もしなければ、為替圧力を助長するだけであった。ECBと各国中央銀行がFRBの利上げにすぐに影響を受ける金融の世界では、ヴォルカー時代にみられたような、通貨自主権を主張することと、エネルギー価格の高騰時にインフレを招く通貨安を容認することとのトレードオフがふたたび生じた。
ユーロ圏は、参加国間の為替相場が不安定化する可能性を排除したことで、フランソワ・ミッテランの実験を悩ませた問題から多少とも守られるかたちとなった。
しかしながら、ECBが行動に出るか出ないかにかかわらず、ドイツとイタリアのあいだの金利スプレッドがふたたび拡大するリスクがまだ残っていた。
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