「平和を望むのか、それともエアコンをつけたいのか」 エネルギーが国際秩序の崩壊をもたらす「主要通貨」となる

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エネルギー問題
エネルギー問題の原因をウクライナ・ロシア戦争のせいにすることは政治的には好都合だが、実際には、2021年の夏から欧米の政治家たちのあいだでエネルギー問題の解決策が模索されていた(写真:Andreanicolini/PIXTA)
2016年のブレグジット、2022年のロシアによるウクライナ侵攻、さらにはトランプの2度にわたる大統領選勝利の原因は、実は同じものではないだろうか。「エネルギー、グローバル金融、民主主義」という3つの歴史から、政治経済構造の亀裂を分析した新刊『秩序崩壊 21世紀という困難な時代』(ヘレン・トンプソン著)が、このほど上梓された。同書に収録された「2022年以後――戦争」を転載する最終回の第3回(第1回はこちら、第2回はこちら)。

エネルギー価格危機はすでに始まっていた

世界のエネルギー輸出大国によって始められた戦争がエネルギー分野にもたらした激変は、必然的に経済ショックを次々にもたらした。

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確かに、現在のエネルギー問題の原因をもっぱらウクライナ・ロシア戦争のせいにすることは政治的には好都合であったが、そう考えたい衝動は、2022年初頭からすでに始まっていたエネルギー価格危機を無視するものであった。

実際には、2021年の夏から欧米の政治家たちのあいだでエネルギー問題の解決策が模索されていたのである。

侵攻の1カ月前、原油価格は2014年後半以来の高値をつけた。2021年、ヨーロッパ諸国は歴史的な原油価格の高騰に匹敵する天然ガス価格の高騰に見舞われた。すなわち、中国の輸入LNG需要が15%増加したことで、EUの天然ガス先物は2021年12月には、パンデミック前の18倍の水準に達していた。

端的に言えば、エネルギー貿易の流れの地理的パターンが崩れはじめる前からすでに存在していた供給面の制約がウクライナ・ロシア戦争によって顕在化したのである。

ヨーロッパを襲った2021年の天然ガスショックは、ユーラシア全域に広がるLNGの獲得競争を反映したものであった。

したがって、2022年に起こった天然ガス価格の高騰は、それがいかに苦しい試練であったにせよ、西側諸国が戦時にあって海上天然ガス争奪戦に勝利するための必要条件であったのである。

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