給付金を受けられず困窮した、自称"物売りの人" 「平等と公正は違う」超氷河期を経験した男性

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それでもユウタさんは着実に売り上げを伸ばした。有名百貨店からも声がかかるようになり、年間の売り上げは400万円近くに達した。しかし、さらなる飛躍をと意気込んだ矢先、新型コロナウイルス感染症拡大の直撃を受ける。

Tシャツ
1990年代後半からメジャーリーグで活躍した野茂英雄のTシャツ。オンラインショップに載せる写真はアパートの外壁を利用して撮影することもあるという(画像:ユウタさん提供)

ユウタさんは、コロナ禍における個人事業主などに対する支援をほとんど利用することができなかったという。持続化給付金の100万円は、取引の多くがその場で現金をやり取りする「とっぱらい」といわれる方法だったため、支給条件である売上高の前年比50%以上の減少を証明できなかった。家賃支援給付金は実店舗がないのではなから対象外。唯一利用できたのは社会福祉協議会による20万円の貸付だった。

「銀行通帳で減収を証明することはできませんでしたが、(契約書など)ほかの取引の記録を見てもらえば、僕がコロナで打撃を受けた事業主であることはわかったはずです。せめて個別に事情を聞く機会をつくってほしかった」とユウタさんは訴える。

給付金は平等に支給された。しかし、セーフティネットとしては果たして十分に公正だったのだろうか。

水道は10回以上止められた

コロナ禍では百貨店のイベントもフリーマーケットも軒並み中止となったため、売り上げはほぼゼロに。それでも仕入れを完全にストップしてはジリ貧の一途をたどるしかない。数年はアルバイトをしながら、約6万円の家賃や仕入れ費用をまかなった。生活困窮者などに食料を無償提供する「フードバンク」には助けられたという。

また、その間、水道料金を支払うことができず、10回以上給水を止められた。民間事業者によるガスや電気と比べ、生命にかかわりかねない水道はすぐには止められないというイメージがあるかもしれない。しかし、多くの自治体が水道の検針業務などの民間委託を進める中でそうした“常識”は様変わりしつつある。

中でもユウタさんが暮らす東京都は2022年度、業務効率化のために料金滞納者への催告方法を、委託先業者の検針員による訪問から郵送へと変更した。それまでは訪問時に分割払いを提案したり、福祉や支援につなげたりすることでできるだけ給水停止を回避してきた。しかし、郵送に切り替えたことでそうした機会は失われた。給水停止件数は2021年度の約10万5000件から2022年度には約18万件に急増。その後も高水準が続いている。

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