勤勉な日本人が「低い生産性」に甘んじてきた必然 『ホワイトカラー消滅』冨山和彦氏に聞く・後編

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――グローバル産業はそういうふうに変わっていくとして、本書には、今後ローカル産業が日本経済のある種の柱となっていくとあります。ローカル産業が新たな形で分厚い中間層を再建していくということですね。

「日本は大量生産、つまり巨大設備産業が得意だから鉄鋼で勝ったのか、電機で勝ったのか?」をよくよく考えると、答えはノーだ。

資本力ならアメリカが上だった。なぜ日本企業が強かったかというと、複雑性のある業務のデリバリー能力が高かったから。ややこしい組み立てでも再現性を持って何度も何度も繰り返しできる、かつそれを改善改良できる。これがある時期、ハードウェアの大量生産にバチっとハマった。

実は、われわれの社会の組織能力の本質は大量生産ではなかった。複雑なオペレーションをデリバリーする組織のすごさが日本の強みだ。そう考えると、観光産業はまさにその本質に合致する。

お客さんが空港に来る、入国する、宿泊地に移動する。その過程でいろんな交通機関を使うが、日本の電車は時間どおりに来る。これはすごいことだ。インバウンド医療が盛り上がっているが、医療もまさに複雑系だ。日本の社会的なコアコンピタンスは、観光も含めエッセンシャルワーク的なところで発揮される。

「次世代の基幹産業」の条件

――それに見合う付加価値を主張していく必要があると。

冨山 和彦(とやま・かずひこ)/IGPIグループ 会長。1960年生まれ。経営コンサルタント。東京大学卒業。在学中に司法試験合格。スタンフォード大学でMBA取得。産業再生機構COOを経て、2007年に経営共創基盤(IGPI)を設立(撮影:今井康一)

そう。割安と思われてるからインバウンドが来すぎちゃう。「この人たちこのサービスになんでこれだけの値段しかつけないんだろう?」と思われているわけだ。

――そうすれば観光産業も基幹産業になりうる。

絶対チャンスだから。日本の製造業の1人当たりGDPや労働生産性が今でも高いのは、自動車産業が頑張れているからだが、それに代わる、大量の雇用を吸収できる高付加価値産業の可能性が製造業にないのは明らかだ。

半導体は伸びているが、あまり雇用を生まない。工場に行ってみたらわかるが、半導体は装置産業だ。熊本には工場を作るために人が集まったが、実際に回りだしたら人はいらなくなる。データセンターもそう。

基幹産業は、外貨が稼げることと多くの雇用が生まれることが2つの条件。いま製造業に力を注ぐのは明らかに間違いだ。

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