勤勉な日本人が「低い生産性」に甘んじてきた必然 『ホワイトカラー消滅』冨山和彦氏に聞く・後編

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――観光産業を基幹産業に育てるため、今後必要なことは?

観光経営人材の育成だ。日本の観光地はすでにオーバーツーリズム状態なので、はっきり言うと、安いツアーは来てもらわなくていい。限られた人数に高い付加価値を提供することをやっていかないと、観光産業自体が成り立たなくなっていく。

観光産業の高付加価値化に、必要なのが経営者の力だ。観光業はどちらかというと分散的で、巨大産業に収斂しないので、相当数の優秀な経営者が各所で頑張らなければいけない。

国策的に高付加価値産業を目指してるのはヨーロッパで、その典型がスイス。高付加価値観光をやって、来てくれた人にロレックスのような高い時計を買ってもらう。アメリカだと、ネバダ州ラスベガスとか。こういうところには必ず世界有数の観光専門ビジネススクールがある。アジアでもマカオなどにある。

日本は学部レベルで立教大学に観光学部があり、いま非常に人気がある。これをもっと高度化して、グローバル標準の観光MBAを作るべきだ。だからやる気のある若者はホワイトカラーを漫然と目指してる場合じゃない。絶対観光業に行ったほうがいい。

観光分野の教育を充実させることに加え、DMO(Destination Management Organization:観光物件、自然、食、芸術・芸能、風習、風俗など当該地域にある観光資源に精通し、地域と協同して観光地域作りを行う法人)の役割も重要だ。

観光は、実は単独の旅館の勝負ではない。エリア一帯にどう誘客し、その中でどう楽しんでもらいお金を払ってもらうか。その中心になるのがDMOだ。欧米ではDMOがしっかりしている。日本でも一応DMOを作ったが、うまく機能しているところより、そうでないところのほうが多い。

その理由ははっきりしている。欧米のDMOはだいたい観光税や宿泊税から収入を得ており、頑張ると収入が増える。一方、今のところ日本のDMOの多くは、やりがい搾取型だ。これを変えていけばいいのだから、伸びしろ満載だ。

押さえつけていた生産性を開放する

――『ホワイトカラー消滅』では、今の日本にはマラソンでいうと5時間ぐらいで走ってる人が多いが、これをサブスリー(フルマラソンで3時間を切ること)に持っていけると。

今、日本の時間当たりの付加価値労働生産性は世界30位だ。後ろを振り返ると、先進国はいない。それはおかしいだろう。正しい走り方を覚えて、トレーニングして、AIのようなテクノロジーを導入すればいい。そうすれば、生産性は単純計算で1.5倍。GDPが50%増える。

日本人は教育水準が高く勤勉で規律正しい。それなのになぜ付加価値労働生産性がこんなに低いのかを考えると、暗黙のうちに生産性を押し下げてきたからだ。雇用を守らなきゃいけないというので抑制した。

――自発的なワークシェアリングが行われたということですね。

そう。大企業は雇用を守る代わりに賃金を上げられませんといって頑張ってきた。当然、下請けもそうなる。そこからあふれ出た人はサービス産業に行くから、そこも低賃金。そういう経済が30年間続いた。高い代償を払って安定を保ってきた部分がある。

安定のためには、むしろ労働生産性は低いほうがいい。雇用数が増えるから。そうやって「停滞なる安定」を選んできたのが、これまでの30年だった。そんなふうに無理やり押さえつけていた生産性を開放してあげればいい。

撮影・編集:田中険人、昼間將太

▼前編

撮影・編集:田中険人、昼間將太
西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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