「品位あふれる閑暇」を楽しむ家賃6.5万円の部屋 学生時代の経験で鍛えられた自己投資の感覚

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宮川さんが奨学金を通じて学んだ「自己投資」の精神は、仕事においても重要な価値観となっている。自分の限られたリソースをどう活用するか、そこには彼流の哲学がある。

自分のため『品位あふれる閑暇』を確保したい

宮川さんが部屋で過ごすとき、大切にしているのは「ぼーっとすること」。

現代はタイムパフォーマンスを上げるために、すべての時間に予定を詰め込んでしまいがちだ。しかしあえて余白の時間を作ることが生産性を高めると、宮川さんは言う。

育てている植物
日当たりが良いので植物がよく育つ(撮影:今井康一)

「窓の外を眺めてぼんやりするような時間にインスピレーションが湧きます。映画監督のティム・バートンはそういう時間が『最も生産性の高い時間の使い方』だと言っているんですが、僕も同じように考えています。

もうひとつ、僕の愛読書に國分功一郎さんの『暇と退屈の倫理学』があるんですけど、そのなかに『品位あふれる閑暇』という言葉が出てくるんです。

労働者階級は、余裕ができてもその過ごし方を知らず、暇に苦しみ退屈してしまう。それに対して、古い有閑階級、たとえば貴族のような階級の人々は『品位あふれる閑暇』の過ごし方を知っている……というようなことが書いてあって。

僕はこの『品位あふれる閑暇』という言葉が好きです。奨学金を返しながら働く自分は労働者階級といえるかもしれませんが、そこに甘んじていたくない。だから忙しくて追い詰められていても、自分のための『品位あふれる閑暇』を確保しようと思ったんです」

(「品位あふれる閑暇(otium cum dignitate)」はキケロの言葉であり、ヴェブレン『有閑階級の理論』で掲げられた概念。國分功一郎『暇と退屈の倫理学』では、この議論を紹介している)

宮川さんの作品
渋谷のギャラリーで個展を開いたときの作品。各国にいる「パンクス(パンクカルチャー好きという意味)」をフルーツで擬態化。展示では個々の写真ごとに、ティーンエイジャーがつける香水の匂いをつけて、見る側の視覚情報に嗅覚がどのように影響するかを探った(撮影:今井康一)

収入の格差のことはよく言われるが、時間の余裕にも格差はある。そして収入の低さと時間の余裕のなさがイコールになってしまうことも、よくあることだ。それだけでなく、私たちはなけなしの空いた時間さえも、多すぎる情報や将来の不安に対処するために、食いつぶしている。

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