「一杯どうぞ」玄人バー文化が若者に"拡大"の背景 まるでキャバクラ?獲得数を店員に競わせる店も

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また、飲食店の人材難も無関係ではない。多くの飲食店が人材の確保と、さらに採用した人材の定着に苦労している。「一杯どうぞ」はスタッフの働きが評価されたチップ代わりであり、やりがいにつながり離職を減らすのにも役立つ。

ある居酒屋では、壁に各スタッフの「月間ドリンク獲得数」が書いてあった。各スタッフが「一杯どうぞ」を獲得するたびに「正」の字が加算されていくもので、スタッフのやる気や闘争心をあおるには十分だ。

聞けば、その店では獲得したドリンクの杯数は給料にも反映されるという。常連からしても、どのスタッフがどれくらい票を獲得しているのかを見るのは、まるでアイドルの総選挙のように楽しめる。推しのスタッフがいたら、つい一杯おごりたくなりそうだ。

推し活としての「一杯どうぞ」

そして「お客の意識の変化」について。現代は「推し活」全盛の時代。先ほどの「月間ドリンク獲得数」のように「一杯どうぞ」は推し活的な側面を持つ。

なぜ今の時代に推し活が盛り上がっているのかというと、『希望格差社会、それから―幸福に衰退する国の20年』(山田昌弘著/2025年・東洋経済新報社)の主張が腑に落ちる。

同書によると、経済的なものをはじめさまざまな格差が広がった現代では、人々は推し活をはじめとする「バーチャルな世界」でその格差を埋めようとしているという。

高度経済成長期と違い努力しても報われにくい環境下、人並みの生活が困難になり、結婚もできず子どもが持てない人が増えている。そんな世の中で、例えばアイドルやマンガの推し活だったり、お金で疑似恋愛が楽しめるキャバクラやホストクラブだったり、家族の代わりに愛してくれるペットの存在だったりと、本来の実存とは文脈の異なる「バーチャルな世界」にのめり込みやすくなっている。

「一杯どうぞ」は、本来はお客と店員というビジネス上の関係でしかなかった存在に、お金を払うことでまるで親しい間柄のように乾杯やコミュニケーションができるという点で「バーチャルな世界」に近い。アイドルの推し活でいうところの「チェキ」に似ている。

「チェキ」とは、お金を払うことで本来は高嶺の花だったアイドルと触れあい、一緒に写真(チェキ)を撮ることができるというものだ。そうした感覚で「一杯どうぞ」を行っている人も多いのかもしれない。

さらに、そもそもは「店員におごる」はキャバクラやホストクラブのような水商売の店の基本原理。「一杯どうぞ」はここからきているのかもしれない。

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