政治の停滞が1年も続く台湾が抱える2つの問題 3期目の少数与党政権下における新たな構図

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選挙罷免法と財政区分法の改正法案への支持と不支持が拮抗しているのに対し、三権分立に重大な影響を及ぼし得る憲法訴訟法の改正は唯一賛成多数になっている。また三法案への認知度調査では55.9%が「わからない、または無回答」を示している。

つまり多くの台湾市民の関心は、法案の具体的内容よりも与野党の対立構図に向けられている。若年層・高学歴層における柯文哲個人への支持率が大幅に低下しているのに、民衆党の支持率は23.9%で下げ止まりの兆しを見せていることも注目に値する。

この現象は、繰り返される与野党対立の構図の中で、一人看板だった党首個人のスキャンダルの影響は民衆党にとって限定的ということだ。第三極への市民の期待が完全にはしぼんでいないのかもしれない。

党利党略が続き、憲法体制にも影響

現在の台湾政治では少数与党と多数野党の対立が新たなパターンを示しつつある。

野党連合が数の力で世論の拮抗する法案を強行採決し、与党は街頭デモで市民に直接訴えかけて対抗を試みるが、効果は限定的である。これに対し政権自体は、行政院による立法院への再議請求や憲法法廷への提訴など、憲政上の抑制と均衡のメカニズムを活用して対応している。

現在の状況が示す問題は2つある。ひとつは、政党が政策論議よりも党利党略を優先させ、政治の停滞を招いていることだ。例えば、与党民進党は野党時代に推進していた法案に反対するなど一貫性を欠く行動が目立つ。

与野党協議の場が形骸化し、建設的な議論が行えない状況も深刻だ。大法官人事の党利党略による否決、総統による大法官指名権限の不均衡などの課題も与野党ともに与党時代には放置してきた。

もう一つは、今回の法改正が台湾の憲法体制そのものに影響を及ぼしかねない点だ。選挙罷免法や憲法訴訟法は、憲法典の改正なしに憲法体制を変更できる「基幹的政治制度」に当たる。現在の与野党対立が、台湾の半総統制における立法府と行政府のバランス、そして憲法法廷の独立性にどのような影響を与えるのか。今後も注視が必要である。

平井 新 東海大学特任講師

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ひらい あらた / Arata Hirai

東海大学政治経済学部政治学科特任講師。2020年、早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程修了、博士(政治学)。専門は、比較政治学、移行期正義論、台湾現代政治、東アジア現代史など。2021年、北京大学国際関係学院博士課程修了(ABD)。主著に、Policing the Police in Asia: Police Oversight in Japan, Hong Kong, and Taiwan (SpringerBriefs in Criminology)などがある。早稲田大学地域・地域間研究機構次席研究員などを経て、2023年から現職。

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