東京都は助成金11億「無痛分娩」普及を妨げる"壁" 全国の実施率は1割、乗り越えるべき課題とは?
無痛分娩の妥当性は、国際的にも認められている。WHO(世界保健機関)は、科学的根拠に基づいた出産のガイドライン「ポジティブな出産体験のための分娩期ケア」のなかで、陣痛の痛みを緩和する方法として推奨できるものを挙げており、無痛分娩もそこに入っている。
一方で、日本の無痛分娩には課題が多い。1つが出産施設のあり方だ。
医療の専門家の間では、日本で無痛分娩が普及してこなかったのは、たくさんの小規模な施設が出産を取り扱い、大病院の出産が少ない「分散型」の体制をとってきたためだと考えられている。
日本の出産の約半数は、常勤の麻酔科医がいないクリニックで行われており、そこでも、病院と同じくらいの割合で無痛分娩が行われている。麻酔科医のいない施設の無痛分娩で麻酔を入れるのは、産婦人科医や、外部から短時間だけ来るフリーランスの麻酔科医だ。
日本産科婦人科学会の前理事長で、産科の医療体制に詳しい木村正医師(堺市立病院機構理事長)は、「これは国際的に見て、かなり珍しい」と言う。海外では、出産は年間何千件もの分娩を扱う巨大な病院で行われるのがふつうだ。木村医師が2023年に視察したイギリスの1病院あたりの分娩件数は、日本とまったく違った。
「オックスフォード大学の年間分娩件数は7000件を超え、産科医の数は約50人でした。日本は数百件程度のところが中心で、年間1000件を超す分娩を扱っている病院は、数えるほどしかありません」(木村医師)
産科には専従の麻酔科医が多数いて、24時間体制で待機し、陣痛が始まった希望妊婦に無痛分娩の処置を行っている。無痛分娩が普及している国では、出産にかかわる医療者や装備が集約化されているから、たくさんの無痛分娩を安全に実施できるのである。
欧州ではまた、医療保険が分娩前後の費用全体をカバーし、妊婦の経済的負担はほとんどないのが一般的だ。無痛分娩の費用も保険でカバーされ、たくさんの妊婦が麻酔を使って出産している。
麻酔科医がいる曜日に合わせて出産
では、日本ではどのように無痛分娩を行っているのだろうか。
最も多いのは「計画無痛分娩」という方法だ。妊婦は無痛分娩をするかどうかをあらかじめ決めておき、麻酔科医が来る日時に合わせて入院、薬で子宮を収縮させ、陣痛を人工的に起こして出産する。
これに対して海外の無痛分娩は、自然な陣痛が起きてから入院し、出産中に麻酔が必要になったら麻酔科医が来てくれる。
全国出産施設情報サイト「出産なび」に掲載された無痛分娩実施施設の情報を厚労省が集計したところ、計画分娩が64%、自然陣痛で麻酔をするところが27%、無回答9%だった。
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