東京都は助成金11億「無痛分娩」普及を妨げる"壁" 全国の実施率は1割、乗り越えるべき課題とは?
この都民への調査では、希望しても無痛分娩を選ばない理由は「費用が高いから」が多かった。無痛分娩の加算料金は大体10万~20万円である。
「特別な産み方」ではない
都内の大学病院で2人の子どもを無痛分娩で出産したAさん(30代)は、今回のこの政策を強く支持する。
「医師不足など、医療現場の問題はあると聞いていますが、出産に対する恐怖心を和らげてくれることにお金を使うのはいいことだと思います」
Aさんは、日本がまだ無痛分娩を選びにくい社会であることには疑問を感じているという。
「『無痛分娩で産んだ』と話したら、ちゃんと産んでいないように言われたこともありました。女性は、もう、産むだけですごいと思うのに。無痛(分娩)がいいと思った人はそうすればいいので、それを特別な産み方をしたように言う風潮は変わってほしい」
この政策に否定的な意見もある。
そもそも子育てには 2000万~3000万円かかるといわれている。その金額に比べれば10万円はあまりにも小さく、これで都民の出産意欲が高まるとは到底考えられないという意見だ。
無痛分娩の助成を所管する東京都福祉局子供・子育て支援部調整担当課長の谷山倫子氏は、少子化対策は非常に複合的な現象であるため、都は都民の多様な望みに1つひとつ応え、産み育てやすい環境を作ることにより、結果的に出生数が上向くことを期待しているという。
東京都は「チルドレンファースト」を掲げ、今回の予算案にも子育て支援の政策がずらりと並んだ。2023年から始めた18歳までの手当「018サポート」や、所得制限のない高校無償化、保育料無償化の対象拡大などだ。無痛分娩はこうした支援策の一環で、都民がこれを望んでいるという先の調査を根拠として予算が計上された。
筆者は、無痛分娩の支援策は女性たちへの精神的な支援になりうるという点で、大きな意義を持つ可能性があると考えている。
無痛分娩を行う医師たちによると、無痛分娩を希望する妊婦は、家族や知人などに「母親として失格だ」「甘えている」と言われることが少なくないという。
だが、助成金が出れば「自治体が無痛分娩の正当性を認める」という意味合いにもなる。そうなれば社会が無痛分娩に対して理解を示すことにつながるし、女性も気が楽になるだろう。
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